深刻な未利用魚、シイラ
死んだら地味だけど、生きているときはコバルトグリーンなのだ

さて、未利用魚、未利用魚と騒がしいが、ちゃんとわかっている人いるんだろうか。厳密な意味での未利用魚は存在しないのに未利用魚という言葉が一人歩きしている。ということで、未利用魚の基礎知識を始める。
当然国内各地で聞取をする必要があるが、例えば漁業者に聞いてもいいが、加工品業者、買受人(大卸・仲卸)、小売業の話も重要であり、消費者も重要だということを忘れている人がいる。むしろいちばん未利用魚がわからないのは行政、そして漁業者かも知れないという現実も知るべきだ。
最近、未利用魚にマイナー魚を加えるなど、魚価の変動を知らずにいろいろ語る、驚くほどのバカ丸出しなことをいうヤカラまでいる。
魚価を知らなければ、未利用魚はわからない。そのためには、日常的に魚を買っていないとダメだが、そんな人間見た事がない。
低価格で安定しており、小型はまったく取引の対象になっていないという意味で、シイラはもっとも深刻な未利用魚である。
シイラは世界中の暖かい海域に生息する、生きているときはコバルトグリーンに輝く美しい魚である。ヘミングウェーの『老人と海』に登場することでも有名である。
成長すると2メートルにもなり、その形はスケートボードのようで左右に極端に平たい。温かい海域を回遊していて、小さな時には甲殻類を、大きくなると魚を主に捕食する肉食魚である。
国内では本州の温かい海域に生息していたが、温暖化で今や北海道に生息域を北上させている。
生息域の広がりと、とれる時季が長くなっているので、水揚げ量も増えているはずである。
魚へんに暑いと書いて鱪である。夏の魚で夏にとれる魚であった。これが東北、北海道でこそ夏の魚であるが外房以南では周年見られるようになっている。
北海道など夏にサケがとれなくなり、シイラが大どれという悲劇的な状況になっている。サケはどんなに豊漁でも需要が高く、お金になるが、シイラはまったくお金を生み出さない。
■写真は売りにくい全長1m以下の小型。
山間部ではいまだに人気のある海産魚である

沖縄のパヤオ、「しいら漬け」という比較的専門に狙う漁がある。
特に「しいら漬け」は沖合いに竹の筏を組み、それに着くシイラを狙う旋網が盛んに行われている。また定置網などにもまとまって入る。
定置網にもまとまっては入る。小型は定置網の方が多い。
新潟県や高知県のように海辺でも好んで刺身で食べる地域もある。ただし、本来は山間部で人気が高い。島根県や鳥取県で水揚げしたシイラは「塩しいら」にして岡山県や広島県の山間部に送られていた。高知県のシイラは瀬戸内海を渡って中国地方の山間部に送られていたとも。
長野県の松本市などには今でも日本各地からシイラがやってきている。
山間部では食用魚としては歩留まりがよく、身の色がブリに似ていることなど、上質の白身で人気があった。
ちなみにシイラと呼んでいたのは関東で、西日本各地では「マンサク(豊年満作の万作)」と呼ぶ地域が多い。
白身魚で嫌みのない味のシイラは昔は売れる魚だった。これが白身から背の青い魚へ、上品で脂のない白身から、脂の豊かな魚への嗜好の変化が起きて人気に陰りを帯びてくる。
しかも山間部と平野部の流通での差がなくなり、山間部だからといって本種を好んで食べるという食文化が衰退してきてい。
またシイラの干ものが、昔は人気が高かった。全長50cm以下の開き干しは絶品であるが。作る業者が消えつつある。
当然、山陰などで作られ、中国地方の山間部に送られていた塩シイラも今や幻である。
■山間部の市場に山と積まれたシイラ。
70cm・80cmサイズでも売れない魚なので扱いは雑

先にも述べたように、温暖化でサケがとれていた地域で、サケがとれなくなり、本種が揚がり始めている。
サケを食べる食文化を本種や同時にまとまって揚がり始めたブリに移行するのは難しい。ブリはそれでも脂ののった大型が北でも揚がり、徐々に値を上げているが、シイラは取り残されている。
また昔からシイラの小型魚は売れない魚の代表的なもので、福井県の「さんぺい」、島根県の「ほうちょう」、旧紀州(三重県西部、和歌山県)の「やなぎは」などは漁業上非常にやっかいな存在である。この小型が低価格以前でほぼ見向きもされない。
あえていうと、1㎏、2㎏の中途半端なサイズも価格は低迷も深刻である。
■写真は売れ行きのよくないサイズのシイラ。
刺身のおいしさは食べた人でなければわからないけれど

まず、シイラは単純に白身(見た目の)として扱われることが多いが、実はサバ科の魚同様に鮮度落ちが早くヒスタミン中毒を起こしやすい。温度管理などを徹底しての流通が好ましい。
非常に料理のしやすい魚である。小さくても歩留まりがよく下ろしやすい。切り身にしやすい。
和にこだわって刺身や煮つけにすると、大型が好ましくなるし、どうしても厳選しなくてはならなくなる。
■写真は大きさもよく、旬の時季の刺身。
日本の洋食にはこれ以上ない素材である

これに対して、油を使ったフライやムニエルなどの日本の洋食にはとても相性がいいし、大きさや、脂の乗りにあまり影響されることがない。
小型を使ったフライなどお弁当に使ってもいいくらい、万人向けの味である。
アミノ酸値の高い魚を朝ご飯にも、ということでは朝のパン食にも合う。
■写真は売れない全長80cmサイズのシイラのフライ。