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コラム

深刻な未利用魚、シイラ

さて、未利用魚、未利用魚と騒がしいが、ちゃんとわかっている人いるんだろうか。ということで、未利用魚の基礎知識を始める。当然国内各地で聞取をする必要があるが、例えば漁業者に聞いてもいいが、加工品業者、買受人(大卸・仲卸)、小売業の話も重要であり、消費者も重要だということを忘れている人がいる。むしろいちばん未利用魚がわからないのは行政、そして漁業者かも知れないという現実も知るべきだ。最近、未利用魚にマイナー魚を加えるなど、魚価の変動を知らずにいろいろ語る、驚くほどのバカ丸出しなことをいうヤカラまでいる。魚価を知らなければ、未利用魚はわからない。そのためには、日常的に魚を買っていないとダメだが、そんな人間見た事がない。低価格で安定しており、小型はまったく取引の対象になっていないという意味で、シイラはもっとも深刻な未利用魚である。シイラは世界中の暖かい海域に生息する、生きているときはコバルトグリーンに輝く美しい魚である。ヘミングウェーの『老人と海』に登場することでも有名である。成長すると2メートルにもなり、その形はスケートボードのようで左右に極端に平たい。温かい海域を回遊していて、小さな時には甲殻類を、大きくなると魚を主に捕食する肉食魚である。国内では本州の温かい海域に生息していたが、温暖化で今や北海道に生息域を北上させている。生息域の広がりと、とれる時季が長くなっているので、水揚げ量も増えているはずである。魚へんに暑いと書いて鱪である。夏の魚で夏にとれる魚であった。これが東北、北海道でこそ夏の魚であるが外房以南では周年見られるようになっている。北海道など夏にサケがとれなくなり、シイラが大どれという悲劇的な状況になっている。サケはどんなに豊漁でも需要が高く、お金になるが、シイラはまったくお金を生み出さない。■写真は売りにくい全長1m以下の小型。
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5月も末の兵庫県明石浦のマサバを生で

兵庫県明石市は歩くのが、とてもとても楽しいところである。例えば山陽本線明石駅から南に下ると海に出る。そのまま西へ西へと歩く。そこは商店もあるけどどちらかというと住宅地といったところで、このあたりを材木町といい、また海を目指すと港町、岬町に入る。このぐちゃぐちゃした町と町並みが好きだ。おいしい玉子焼の店があり、いいすし屋がある。オバチャンがやっている喫茶店に小さな魚やなどなど、また歩きたいな、とぞ思う。さてその海辺にあるのが明石浦漁港で、今回のマサバはここから来ている。ここに水揚げされる魚は原則的に活魚であって、当然、今回のマサバも活け締めである。明石浦というだけで、とりあえず刺身にしたのは、ここで水揚げを何度も見ていて、場内が全部活け場であり、締め方が完全無欠だからだ。明石海峡ではあまりたくさんはマサバがとれない。水揚げが増えたのは最近のことではないか。体長34cm・679gの雌で、大きな真子を抱えている。三枚に下ろすとじんわりと身が反る。血合い骨は抜けるが皮が硬くて剥きにくい。お昼ご飯に薄めに切りつけて、柚子胡椒に、柑橘のすだちを添える。柑橘柑橘なのは徳島県人の性である。一切れ一切れにちょんちょんと少しだけ柚子胡椒を乗せて、すだちを搾って食べる。ちなみに真横に、ご飯はあるけれど、ご飯の友ではなく、刺身と凍頂烏龍茶でしみじみ、じっくり味わう。やはり脂がないために味にこくはない。でもマサバらしい味が豊かで、食感が強くて、一切れにドラマがある。この脂のない時季に、脂のない個体のよさを感じることができることこそが、自然そのままを楽しむことでもある。
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春の小田原、全長20cmマアジのアジフライ

塩コショウしてラップしておいたアジフライ用の中に、干もの用に背開きにしたものが混ざっていた。一緒に作ったので、こんがらがったのだ。ボクは意味もなく、かなりの確率でフライは腹開き、干ものは背開きにしている。もちのろん、逆もある。まあこんなこと、ドッチャでもええ、と思っているというか、大雑把なボクは何も考えないでそうしているだけ、だというか。世に棲んで、人に迷惑や危害を加えること以外はオールアウト! なのだと開き直る。だいたい細かいことを気にするって無駄だと思う。冷凍保存しておいた、塩コショウし、開いたものは室温で戻して水分を取る。小麦粉をまぶし、溶き卵をまとわせ、パン粉をつけて中温で揚げる、だけだ。下高井戸においしい鮮魚を使ったアジフライがあるけど、自分で揚げたてを食べる方がそれ以上だと思っている。要するに、いちばんおいしいアジフライは自家製なのだ。アジフライはいつもいつも、いつ作っても、おいしすぎるので、あっと言う間に食べてしまう。香ばしさよりも、マアジのうま味、青魚特有の個性がでしゃばっているところがええ。マアジは目立ちたがり屋だけど、目立ちたがり屋でも珍しく嫌みがない。最近、そのような俳優がいるが名が出てこない。その上、今回のは脂があるので味にこくがある。やたらにインパクトのある味なのにいくつ食べても腹五分目で、ついつい食べすぎる。最近、もちろん、なんとなくだけど、最初にアジフライを作ったのはマアジの開き干しを作る会社の作業員じゃないかな? と思っている。失敗作をまずは天ぷらにして、若い世代がカツレツ(とんかつ)みたいにパン粉をつけて揚げてみた。なにはともかく、とてもアジフライを考えた人はエライ。
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カミナリイカで天ぷら茶漬け

揚げたてのかき揚げを熱々のご飯に乗せて、わさび(チューブでも結構)を天盛り。醤油をたらりとかけて熱々の番茶をかけて食べる。醤油をかけるタイミングは、勝手気ままに。足りなければ追いがけもあり。今回のカミナリイカは非常に柔らかく甘い。かき揚げにしても存在感が大だ。ボクはかき揚げをぐずぐずに混ぜ込んで、最近のことではあるがさばさばとやる。昔は少しずつくずしながら、香ばしさを楽しみつつ食べていたのに。なぜに最近はこうなんだろう。天ぷら茶漬けのぐじゃぐじゃした惨状を目の前にして、やりすぎかな? とは思うが、てやんでー、なのだ。白いイカの身が単独で浮かんでいたり、衣だらけのところはやけに油っぽいけどそれもいい。
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春の小田原、ゴマサバ子の干ものはかたかたに

今、都内でもっとも手に入りにくいのが小魚の干ものである。あるとすればウルメイワシとカタクチイワシくらい。ボクの故郷、徳島県などでは海辺の町で様々な干ものが手に入ったもので、それが懐かしいのもあって、小魚の干ものを積極的に作っている。過去のデータをみると、時期はずれるけれど、ゴマサバの子はなんども干ものにしている。我が家の干ものは非常に塩分濃度が低く、硬く干しても塩気が少ないので、もの足りないという人がいる。ただ硬く干してあるので水分量が少なく、その分うま味が凝縮している。あぶったものを噛みしめながら食べると、後から後から味が波のように押し寄せてくる。お茶と一緒に食べても止められず、ビールと一緒に食べても止められない。今回はゴマサバの子のうまさを再度痛感した、そんな初夏のような5月の初旬だった。
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山口県日本海側「瀬付きあじ」は間違いなし

山口県日本海側は「アジどころ」である。「アジどころ」というのはおいしいマアジが揚がる地域という意味ではなく、干もの業者が買い付けに回る地域のことをさす、ボクの造語である。干もの業者は何十トンものマアジを仕入れるのだが、仕入れ先は、島根県、山口県、佐賀県、長崎県、愛媛県、量的には落ちるが宮崎県や鹿児島県である。この地域で揚がるマアジの特徴は脂があることである。「アジどころ」、島根県にも厳選した、「しまね定置もん」や「どんちっちあじ」があるが、たぶんそれより昔々からあったのが山口県日本海側の「瀬付きあじ」である。回遊しないで瀬に居着いているマアジのことで平均して脂がある。萩に行った時にも食べているが、外れなしの魅力的なマアジである。久しぶりの「瀬付きあじ」は体長24cm・230gなのでちょうどいい大きさである。大急ぎで朝ご飯用に半身を刺身にして食べた。夕ご飯にも半身食べたので、1尾丸ごと刺身、刺身だ。木曜日に手に入れた止め(前日入荷)なので食感は落ちているものの、ごっつ大きなうま味が舌に広がり、その後に脂の口溶け感が来た。脂を甘いと感じるのと、ご飯の甘さがよく合う。止めと言っても、鮮度がいいので魚臭さはまったくなく、ショウガなしで食べても非常においしい。やはり水氷(塩水に氷を加えた中に魚を入れて輸送)は優れものだ。さて、これより8月くらいまで「瀬付きあじ」はとれるのだろう。並アジだって、悪くないが、ちょっとだけ贅沢して「瀬付きあじ」の日々が続きそう。
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宇和ゴールドはいつまであるの?

ボクの生まれ故郷、徳島県の旧美馬郡には吉野川右岸にボクの故郷、貞光町があり、対岸の左岸の美馬町には親戚がいっぱい暮らしていた。ボクの町は商業の町で、対岸は農業の町だった。対岸で目立っていたのがハッサク畑だった。その頃、香酸柑橘類のスダチは美馬郡にはなく、徳島県東部のものだった。美馬郡の柑橘類は柚子とハッサクだけだった、気がする。温州ミカンは買わなければいけないけど、ハッサクはただだったので冬から春にかけて来る日も来る日もハッサクの日々だった。当然、みかん類は3月くらいには終わるものと思っていた。ところが八王子総合卸売センター、八百角の店の前は黄色いミカンだらけなのだ。なんだこれはと聞くと、「美生柑よ、宇和ゴールドなの、おいしいよ」というので買ってきた。皮がぼてぼてするグレープフルーツのようなものだけど、グレープフルーツほど水分が多くない。クレープフルーツのような苦味がなく、甘味が少しだけ強い。すっぱいのが苦手なボクにも食べられる。それにリンゴ剥きした皮からいい香りがする。
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今季初淡竹となまり節を煮る

料理は平凡で日常的なものが好きだ。大仰な料理は自宅ではやるべきではないし、やってもその大仰に見合うほどうまくもない。飾り気が多い、盛りだくさんの要素がある料理はやらない主義のボクには、季節ごとの、季節に見合った料理しか作れない。今回の淡竹となまり節など日本のどこでも、普通に、日常的に作られていたものだ。煮物はディスクに座って作業しながら作れるのがいい。15分ほどで煮染まってきたので、追いみりんして味を調えて、もう5分煮る。この間の味見がとってもボクは好き。ご飯なしで煮上がりを食べる。これが茶の子(香川弁かも。お茶の友のこと)になるから不思議である。このとき注意すべきは煮汁はすくわないことだ。煮汁が少なくなると保存しにくくなる。それと、なまり節と淡竹の比率である。今回の場合、同じくらいのおいしさなので、意識しないでも半々の比率だけど、片方がうますぎるときに半々にするのは難易度がかなり高い。これが白飯に合うのである。これに漬物があると最強だが、今回は近所の老夫人が作っている虫食いだらけの蕪の漬け物である。虫が食うくらいなので、いい味のいい小蕪である。基本当座煮(少し保存しておけるおかず)であるが、もって半日でしかない。ちょっとだけ虚し悲し。
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熊野産サゴシ中骨の身の炊き込みご飯

歳を取ったためか白飯一辺倒だったのが、だんだん炊き込みご飯も好きになってきた。炊き込みご飯は、炊き上がりに蓋を取る瞬間がいい。炊き込みご飯は味のよさからいつも2合分たくが、炊き上がりにどれくらい食べるかで迷う。ついつい大盛りになる。さて、焼いたサゴシの中骨にくっついた身から、大量のおいしいが米に乗り移っていることに、一箸目から気づくはずである。炊き込んだサゴシと、少し焦がすくらいに焼いたサゴシの身が別の味なのもいい。ご飯がおいしいので食が進み、ときどきすだちを搾ると箸が止まらなくなる。炊き込みご飯のよいところは、ときどきサゴシの身にあたり、大葉(青じそ)・みょうがの爽やかさに当たるところだろう。ここに茶をそそぎかき込んでいるデブのボクを誰かが見たら、地獄絵そのものである。やめられないし、とまならい。
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刺身に最適な大きさのカミナリイカ

今回、鈴木さんが送ってくれた中に、コウイカとカミナリイカ(モンゴウイカという地域が多いが、輸入ものもモンゴウイカというので要注意)が入っていた。専門的になってしまうがAcanthosepion属2種が揃い踏みというのは非常にありがたい。外套長19cm・687gで若い個体である。2㎏以上になる大型のイカだが、あまり大きいものよりも、この程度がいちばんボク好みだ。初日はまずは刺身、そしてゲソの塩ゆでにする。このサイズは扱いやすい。水洗いしてていねいに皮を剥く。剥きやすいのが魅力である。しかもコウイカ類は肉厚である。ちなみに今、カミナリイカもコウイカも漁の最盛期である。さて、柔らかくてイカ特有の甘さが楽しめるのが魅力である。うんとうまいし、後味がいいので切り落とした部分がもったいなくなるくらいに、なくなるのが惜しい。
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旧暦4月25日、三重県産2.1kgカツオの刺身は初鰹の味

江戸時代の初鰹は4月・5月(旧暦)に相模湾でとれるカツオのことであった。新暦にすると5月下旬から6月半ばくらいまで。大きさは2kgくらいが多かっただろう。今回のカツオも2.1kgなので江戸時代に初鰹として持てはやされたサイズだ。今では相模湾だけではなく日本全国から時季を問わず、このサイズがやってくる。相模湾の例えば鎌倉(現神奈川県鎌倉市)で揚がったら、足の速い若い衆が水をかけながら走ったとしても、それほど冷やせないまま、65㎞として10時間近くかかったはずだ。さて、現在、中央市場など市場の休日は水曜日と日曜日である。基本的に前日にとれたものを仲卸などで販売するが、木曜日は微妙である。火曜日に水揚げされたものである可能性があるからだ。ただし、今や流通の発達から鮮度からすると、飛躍的に向上している。本個体は火曜日水揚げと見たが、非常に鮮度がよく、血液がさらさらとして見事である。魚はばっきばっきに鮮度がよいからよい、とは限らない。これで十二分にいい、のだ。しかもそれだけ安い。江戸時代に3両(いろいろ説はあるけれど最低30万円〜60万円くらい)払った三代目(?)中村歌右衛門に食べさせてあげたかったくらいである。2㎏ものなのでそんなに脂はないが、このあっさりと軽い味が矢鱈にいい。酸味があまりなく、強いうま味だけが舌に残る心地よさは例えようがない。古今亭志ん生、金原亭馬生は刺身といえば中トロ(クロマグロ)だったという。ボクはカツオだな、なんて思う。調べものが多すぎてへこたれているので、大量のにんにく、醤油に少量の煮切りみりんで、背肉の全食いである。夕方なのに神奈川県松田町「松みどり」を半合。しばしベッドで奥州史の世界へ。
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子持ちなれどうまし、5月のガンゾウビラメ

いつでも食べられると思うためか、ガンゾウビラメの味のデータがあまりない。旬はヒラメと同じで、寒い時季から春までだが、5月はだめだろう、と思っていた。今回、鈴木さんが送ってくれたのは一色産だと思うけど、案の定、膨らんだ真子を抱えていた。ただし、身に厚みがある。何はともかく、刺身にしてみたが、思った以上に味がある。ヒラメ科の魚は産卵が近づきすぎるとすとんと味がなくなるけど、5月17日のものは多様なアミノ酸がこんがらがった強い味が舌の上で続く。ガンゾウビラメは寒い時季でも脂をそれほど脂の存在を感じない。とすると5月のガンゾウビラメは上等という事になる。わさび醤油と一味唐辛子醤油では、後者がボクには好みだった。あまり華やかさがない味なので、少しピリッが味のアクセントになる。それにしてもガンゾウビラメ、オヌシあなどれぬヤツよな。
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新しい群れ到来、石川県産マイワシの刺身

石川県産マイワシは3月くらいからずーっと入荷が続いている。4月中旬のものは子持ちで腹が少し柔らかかったが、今回のものは硬く孕んでいない。ボクはマイワシの本当の意味での豊漁期を、データをとっては体験していない。初めての豊漁体験、豊漁の味のデータとなる。さて、たぶん石川県富山湾側でとれたマイワシの腹は硬く、刺身にしてもしっかりとして硬い。これを小鉢に入れてショウガとミョウガを乗せて、醤油をかけてかき回して食べる。2尾分で朝ご飯にしたら、刺身が温かいご飯の上で溶ける。半溶けの刺身、飯かき込むうれしさよ、温い風。どことなく、脂ののったマイワシの刺身は初夏の味だと思っていた。4月までは脂がのっているが、5月に空白期が生まれる。6月になると太平洋側の第一弾の群れが入ってきて、そこそこ脂が乗っていた。この空白期が消えたことになる。気象庁の春なのに、気温は初夏とは残念であるが、ヒトが春と秋を削り取ったのだから、ヒトであるボクも文句を言えた義理ではない。5月20日に初夏(はつなつ)となりにけり、だ。世の中暗いことだらけだけど、マイワシだけが明るい話題だし、うまい。
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寒天のようにぶにぶに三陸のゲンゲ

さて、未利用魚、未利用魚と騒がしいが、未利用魚がわかっている人いるんだろうか。ということで、未利用魚の基礎知識を始める。ちなみに未利用魚の問題点は巨大なデータを見て初めてわかるが、国内を見渡す限り、どこにもそんなものはなく、あえて言えば我がサイトが一番大きい。当然国内各地で聞取をする必要があるが、例えば漁業者に聞いてもいいが、加工品業者、買受人(大卸・仲卸)、小売業の話も重要であり、消費者も重要だということを忘れている人がいる。むしろいちばん未利用魚がわからないのは行政、そして漁業者かも知れないという現実も知るべきだ。最近、未利用魚にマイナー魚を加えるなど、驚くほどのバカ丸出しなことをいうヤカラまでいる。また、魚価を知らなければ、未利用魚はわからない、が、そのためには、日常的に魚を買っていないとダメだが、そんな人間見た事がない。ゲンゲという言葉から説明しないとだめだろう。明らかに一次的魚名(それ自体には意味がない)だが、「げ」には明らかに漢字「下」に通じるところがあり、この漢字を「げ」と読ませるのも低級であるとか、まずいとか、お金にならないとかの意味があるだろう。漢字にすると「下下」である可能性もある。ゲンゲ科(スズキ目ゲンゲ亜目ゲンゲ科)の魚は比較的海水温の低いところに生息している。細長く背鰭・尾鰭・臀鰭が繋がっていて、すべてぶよぶよしているのも特徴である。数え切れないほど多くのゲンゲ科のゲンゲが存在している。■写真上、シロゲンゲ、下、カンテンゲンゲ。
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クロダイのポルトガル風

ポルトガル風としたが、これはボクがポルトガル料理店で食べた料理にヒントを得て作っているだけで、本当にポルトガルで作られているものではない。大量の野菜にクロダイの身が混在しているもので、これを取りもっているのはオリーブオイル(サラダ油でも結構)とにんにくである。テーブルでオイルをかけ回し、混ぜて塩胡椒で味つけするというもので、一般家庭でやると華やかだし、盛り上がると思う。ウルトラC級に簡単で日常的な料理でもある。一般家庭の料理はとにもかくにも簡単に。白身魚というものは塩焼きにすると背の青い魚以上に臭味がある。魚が好きすぎてこんなところがわからない人がいて困るが、これを大量のにんにくと胡椒で消し去ってしまう。実に食べやすい上に大量に野菜が摂れる。このおいしさの表現が難しい。サラダにハムを入れるようにクロダイを入れる、という意味ではなく、野菜にクロダイの持つ味を加えるという感じだろう。大量に作っても、あっと言う間に消え去ること請け合いである。もちろん魚はなんでもいい。
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熊野産サゴシと新玉ねぎの煮つけ

ボクのモットーはできる限りではあるが、季節や気温などに逆らわないで生きること。できる限り、生き物やエネルギーを浪費しないことだ。葉玉ねぎが出たら買い、新玉ねぎが出たら買う。その年の玉ねぎが干し上がったら、初夏だなと思うことも忘れたくない。産卵期の親サワラではなく、若い個体であるサゴシにはあまり季節感はない。年中安定しておいしい。これも喜ばしいことだと思ったりする。さて、そんなサワラの若魚であるサゴシと新玉ねぎの煮上がりは、見るだけですぐには皿に盛らない。煮汁に手が入るくらいに冷めたら、ちょっと柔らかめなので、そーっと手で皿に移す。煮上がりよりもこの時間こそが料理で、よりおいしくしてくれるからだ。今回は甘こってり濃厚ではなく、あっさりした味つけを心がけた。新玉ねぎの甘さを生かしたいからだ。今回の煮つけはあまり塩分濃度が高くない。でも味が強く感じられる。サゴシのおいしいところがいちばん手前の方で感じられる。なにしろ身が矢鱈にうまいのである。うまいは甘いだけどうまい甘いが順番こにくる。この甘いの中に新玉ねぎの甘いが加わっている。別に甘いもん好きすぎるわけではないけど、甘うまい。ついでに言っておきたいのは、新玉ねぎを一度に食べすぎないことだ。サゴシの味が入った新玉ねぎで大盛りご飯が2杯はいける。新玉ねぎだけで2食の飯が食えるのだから、この料理のコストパフォーマンスは非常に高い。ただし、デブには悲しいおいしさなり。
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尾鷲、北村商店のサンゴイワシの丸干し

サンゴイワシの丸干しの味は、まあ、好きになったらとことん病みつきになること請け合いといったものである。深海魚ならではの柔らかさ、独特の脂の味わいなど、深海魚を食べているという気にさせてくれるはずである。後に特有の甘味をともなった渋味が残るのが特徴で、アルコールの友としてはこんなところが素晴らしい。個人的には日本酒よりもビールの友だと思っているがいかがなものか。
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春の小田原、全長20cmマアジの開き干し

2010年5月にハエは飛んでいなかった。気温も低かったし、湿度も低かったので干ものは外干しできた。そして2025年、風通しが悪いのもあり、室内で扇風機を回して干す。なんて無風流なんだ。それでも干したてを焼いたら、言うに言われぬほどおいしい。相模湾二宮沖のマアジは、温暖化の部屋干しでも結構結構である。そこそこ脂もある。5月も後半になると、もっともっと脂が乗るが、ボクなど今くらいの脂で十二分である。ボクはどちらかというとカンピンタンでシンシビーである方が好き。強く干しただけ、余計にうま味が強く、身に味があり、後味が甘い。これで三度は飯の友ができた。米の値上がりは痛いけど、ご飯派なので飯の友は多ければ多いほどいい。当分、朝ご飯は二宮沖のアジの開きとなりにけり。
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春の小田原、ゴマサバ子の唐揚げはNo.1の味

ムツの子、カタクチイワシ、そしてゴマサバの子を食べ比べる前に、順位を想像してみた。1位・ムツの子、2位・カタクチイワシ、3位・ゴマサバの子だと考えた。ムツ子などさくさくしておいしそうだし、カタクチイワシには味があるだろう? ゴマサバの子に何があるんだろう? が想像できなかった。まさか唐揚げ選手権でダントツ1位がゴマサバの子だとは思わなかった。かじりついたときはちょっとだけサクサクした食感で、平凡だったけど、後から味の大波が来たのである。なんだろう? この味のピークは。口に入れてサクサクした後に来る味。内臓は取ってあるので、体幹部分の中心に、その味があるように思える。ゴマサバは「さば節」の原材料であり、だしを取ると、味の通奏低音的な役割になるが、「めじか節(マルソウダ)」のような個性がない。それなのに唐揚げにしてとんがったうま味があるのである。何年魚を食べていても発見がある、のは当たり前だけど、今回の場合は大きくてウレシイ誤算である。
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黄金の穴子は凄い! 酒焼き編

爽やかな風吹く5月のはずが、てんやわんや、やっさもっさの日々が続いている。その上、変に蒸し暑い。そんな5月に、日課のようになってきたのが深夜酒だ。肴を前に、左手に大振りのグラス、右手に文庫本の深夜酒だ。一日を三等分しているのだけど、夜の眠りを2つに分けて深夜1時過ぎに酒を正一合だけ。5月の酒は安くておいしい、神奈川県松田町の「松みどり」である。最近、酒はスーパーに売っているもので、平凡な値段で、自分好みの酒を買い求めている。黄金穴子を強火で焼いて、みりんを塗っただけで、飾り気なしどころか薬味も山椒だけ。皿は鳥取県岩美町、延興寺窯、山下清志さんの新作だけど、黄金穴子の焼き物に似合う。焼き上がりのみりんが焦げた香りだけでも、正一合いけそうだ。焼き物のよいところは腹にたまらないところで、ましてはマアナゴの後ろの身はうま味の塊のようで、ひとかじりが重量級の味である。そこを「松みどり」だけど、このインターバルが長い。酒も肴も時間を楽しむためのものになっている。こんなものが好きになる歳なんだなと思うのも、深夜酒のよさだ。このところ獅子文六を読み尽くしている。『七時間半』を読みながら、ふと、獅子文六は日本のウェストレイクじゃなかろうか、と思って調べると、なんと年の差40歳で、比ぶべくもない。展開の早さは獅子文六の方が元祖なんだと、とかとか。これがボクの毎深夜だ。
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5月、北海道からオオズワイ雄

昔、ロシア産ズワイガニがお手軽で安くて庶民の食卓をにぎわせていた。近年は突然揚がり始めて、最初はてんやわんやだった、北海道日高地方のオオズワイガニが庶民の味方となりにけり、だ。今回のものは280g前後で、このサイズなら1人前1ぱいでちょうどいい。雌は外子の時季で身(筋肉)が痩せているが、雄はむしろ身入りがいい。
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手負いの麦イカを開き干しに

麦イカ(スルメイカの若い個体)は頭をかじられてはいるが、刺身にだってなる。問題ありの売れない水産生物ってとても魅力的なのだ。いつの間にか連れてきたもので、何にしようかな?と考えて、干すことにする。外がぴゅーぴゅーで干もの日和なのである。立て塩は3分なので非常に薄塩である。干ものを作るのは湿度よりも風かも知れない。一夜明けると見事に干し上げっていた。後は焼くだけ、だ。麦イカなので柔らかい。それだってとても魅力的だけれど、干したイカを焼いた香りって、文字に出来ないところがある。濃厚なうま味が舌に広がるのも魅力的だ。こんなに小さな、手負いのイカがこんなにおいしいなんて。魚にかじられてもおいしければ、売ればいいんじゃないかな?
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熊野産さごしの刺身、焼霜造り

高級魚とされるサワラは2キロ以上で、活け締めでなければならない。大きくても野締めは平凡な値段でしかないし、まして2キロ以下は安い。それでもものがよければ、刺身にもなるし、いろんな料理にも使えて経済的である。今回の熊野市産は野締めではあるが、鮮度がいい上に身に張りがある。切り身にして指でなぞると脂が感じられる。もっとも固体本来の味がわかるのが刺身である。ここから焼いたらどう変化するか、とか、煮たら、というのがわかる。野締めだし、「さごし」だし、当然、食感は望めないが、サバ科らしくうま味豊かだ。思ったよりも脂があるのは、白子持ちで産卵を控えているからだろう。今回は尾鰭近くの身を刺身にしてみたが、やはり細長い魚の尾鰭前の味は素晴らしい。
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小田原魚市場、オッカサンの、サクラエビのかき揚

2025年5月9日の港のオッカサンのところの朝ご飯は、サクラエビのかき揚げ丼だった。丼はいやだったので別盛りにしてもらう。朝は丼ではなく、朝ご飯といった感じが好きだ。相模湾でもサクラエビが揚がるが、少ない上に今季は遅れ気味である。さくっと揚がったサクラエビらしい風味がいいし、ご飯がうまいし。ちなみにオッカサンのところで食べるのは、あくまでも働く市場人のための飯。朝8時以前にくると当日ものまだ来ていない。できれば当日のものが食べられる8時以降の来店が好ましい。
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春の小田原、ヒコの唐揚げ

ヒコ(カタクチイワシ)は子持ちなら天ぷらに、と思ったけど、子なし状態だった。子持ちなら天ぷら、煮つけ。なしなら唐揚げにすることが多い。たっぷり揚げてビールの友にし、深夜仕事のおやつに食べる。今回の唐揚げはふんわりとしてサクっとしているのを期待したが、まったく違った味わいであった。揚げると硬く締まり、少し重い味になった。ただし、よりカタクチイワシらしいうま味豊かなところが表に出たといった感じである。サクッとして口の奥に消えるのではなく、噛み応えがあり、強いうま味が長く続く。唐揚げにもこんな味わいがあることがわかった気がする。明らかに今の時季のカタクチイワシの味がここにあるのだ、と思われた。ちなみに同じ二宮定置の唐揚げでは6月はふんわりさくさく、8月はさくさくだったが身のふくらみはなかった。相模湾だけでもカタクチイワシには多数の産卵群(同級生)がいるので、味の波を考えると、意外に奥が深そうである。
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倉橋島、目の下1尺半、マダイとごぼうをたく

4月から続けている、マダイ丸々1尾手に入れると、ものすごくたくさんの料理が作れるという話だけれど、全部紹介できないで終わりそうである。かなり昔の話になってしまうので、これが最後の1品とする。マダイ料理で今、いちばん好きなのは煮つけだ。ただ、ボクの場合、好みがころころ何度も変わるので、ほんまのところ今だけの話かも知れぬ。ちなみに好みが一生変わらないなんて人間は信用できない。そんな人間は不幸としかいいようがない。善悪と関係ない部分は、好みだけではなく、ころころ変わってこその楽しい人生だと思っている。マダイのかまは塩焼きに、潮煮にした。頭部の吻から鰓蓋までの部分をゴボウとたく。ゴボウは適当に切って、ことこと柔らかくなるまで下煮して水に放ち粗熱を取り、ザルに上げておく。頭部は適当に切り、湯通しして冷水に落とし残った鱗やぬめりを流す。水分をよく切る。これを酒・砂糖・醤油・水の中で煮る。ゴボウのときにはショウガは入らない。もちろんどうしても入れたかったら入れればいい。目の周辺や口周りに、こんなに食べられる部分の多いことに、いきなりビックリ仰天するはずである。この複雑な頭部の骨周辺にある身(筋肉)と皮が非常に味わい深い。内臓でもないのに味の濃度が高い。当然、合いの手に食べるゴボウも、そんじょそこらには転がっているはずのないお宝的おいしさである。この複雑な骨周りの煮つけは食べる時間が長いのもいい。食べるという事は時間なので、こんな煮つけこそ価値が高い。蛇足だけど、できればゴボウは食べない方がいい。全部別の器に移し、残して置いて、ご飯のおかずにする方がいい、のである。めし泥棒、これにありという一品になる。
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相模湾の、青アジの旬は今だ

青アジ(マルアジ)はアジ科でもムロアジ属である。ムロアジ属の魚は血合いが多く保存性が低いので、主に節(アジ節)や干ものになる。都内のスーパーにもときどき安く並んでいるが、主に加熱用だ。もちろん刺身用、もしくは刺身も売っているが希である。旬は秋だと思っていたが、Kaiくんは、いまだという。食べたら、確かに今だった。実際、下ろすと白子を持っていて、この白子がまだ小さい。相模湾での産卵期は7、8月だろう。要するに7月、8月の小田原の青アジに脂がないのは産卵後だからだ。データを見ると、9月下旬、10月の青アジは脂が乗っている。とすると相模湾の青アジの旬は晩春と秋の2回ということになる。何十年魚を調べてきても、教わることの方が多かりき、だ。さて、青アジの刺身は血合いが大きいので見栄えは悪い。マアジのような成熟した、妖艶な味でもない。むしろ若葉のように爽やかな味である。そこに豊かな味がある。アジ節の原料になるのは味があるからだ、ということがわかる。ていねいに締めているので、食感がここちよい。しょうがも用意したが、醤油・一味唐辛子、すだちがよかった。
コラム

小さくても下ろし安くてうまい、小ハシキンメの刺身

神奈川県小田原市、小田原魚市場で、こいつだけが漫画の世界のキャラクターのようである。あえて言うとダルマサンに似ている。もう少し後になるともっとたくさん揚がるが、この日はちょろりちょろりとまとまらない。当然、ダンベ(大型水槽で魚粉などになるものを入れる)行きとなる。でもふざけた顔して、うまいのに、なー。しかも下ろしやすくて、手間がいらずで小骨がない。今回のものが今季初小ハシキンメであるので、初物に乾杯、だ。ハシキンメは若魚の時には定置網にも入るが、成長すると深海に移動する。春から初夏だけが、小ハシキンメが食べられるとき、でもある。小さいけれど、刺身はとても美しい。たぶんこんなにきれいな刺身も珍しかろう。しかも体長10cm・40g前後しかないのに、ちゃんと脂がある。甘みがあって、うま味もそこそこで何よりも、ほどよい食感がある。変に肌寒いので頂き物の、菊正宗樽酒を一合弱だけ燗つける。燗酒にも合う、合う。
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水産生物呼び名学001 呼び名採取の世界

もうかれこれ半世紀にわたって水産生物の名前を採取している。徳島県美馬郡貞光町(現つるぎ町)生まれなので、貞光川での呼び名集めから始めた。最初の1種は「ジンゾク」(地方名もカタカナ「」つき表記とする)である。中学生の頃、「ジンゾク」=ヨシノボリとノートに書いた。次に「カワドジョウ」を調べた。「カワドジョウ」=シマドジョウとなる。「イダ」=ウグイ、「ジャコ」=オイカワで、「エッシュウ」=カマツカだ。1960年代から1970年代の採取時に必要だったのは、同定能力と聞取能力であるが、ボクにはそれが欠けていた。この情報は、後々の魚類学上の進歩で、変わってくる。「ジンゾク」=ヨシノボリは、ヨシノボリではなくカワヨシノボリになる。「カワドジョウ」=シマドジョウのシマドジョウはニシシマドジョウになる。誤解もある。貞光川で「ノミンジャコ(農民雑魚)」と呼ばれてる魚がいる。最初稚魚だとは思わなかった、小学生低学年のときはメダカ(現ミナミメダカ)だと思っていた。そう教えてくれた大人もいる。小が高校学年のとき初めてメダカを見た。吉野川右岸、ボクの住む貞光町にはメダカがいなかったのだ。中学生の時、メダカではなくウグイとオイカワの稚魚共通の呼び名だろうと気がついた。採取する人間は確かな同定(種の検索)能力を身につけ、動植物学的な進歩に添うように最新化していく必要があるのだ。例えば採取者は専門知識と歴史や民俗学など分野を越えて身につけておくべきだし、また世間を知らないといけない。
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ホウライヒメジのムニエルはゴージャスな味

ヒメジ科の魚をフランスでは、ルジェー(ルージェ、ルジェとも。Rouget)という。ルジェーは赤い魚という意味である。ルジェーのムニエルやポワレは珍しいものではなくなっているが、昔はめったに巡り合えないものだった。初めてルジェーのムニエル、もしくはポワレを食べたのは、まだ若造で、ただの便利な運転手のようにこき使われていたときだ。フランス直送の素材を使っているという青山の店だった。魚の写真を見た限りルジェーは、ヒメジ科アカヒメジ属まではたどることができた。アカヒメジ属の魚はヒメジ科でもあまり大きくならない。メニューの脇に「ヒメジのムニエル」とあったが、もちろん日本にいる標準和名のヒメジ属ヒメジとは属段階で違う。最近、ヒメジ科のムニエル、ポワレは輸入素材が増え、国産のヒメジ科アカヒメジ属・ウミヒゴイ属の流通が増えたので珍しいものではなくなっている。「ヒメジのムニエル」は「ヒメジ科の魚」と考えるとあながち間違いではないが、店での魚の紹介で、切り身にしてムニエルにならない小魚のヒメジの写真を添えていることが多い、これがなんとなく滑稽である。見当違いですよ、と言いたくなる。そのときの、ルジェーが実にまずかった。冷凍輸入したものだろうし、飾りが多すぎるしで、フランス料理の名店などくそくらえ、と思ったものだ。実は、自分で作ると非常においしいのである。今回のホウライヒメジはウミヒゴイ属で大型になるタイプ。大きくなるとソテーにしにくいが、このサイズはソテーに向いている。三枚に下ろし、腹骨・血合い骨を取る。表面の水分をていねいに取る。塩コショウして、小麦粉をまぶし、少し置く。これを最初弱火でじっくりソテー、中火に上げて、仕上げる。仕上げにタイムの枝とバターでモンテ(強火にして泡立てて塩コショウで味を調える)する。皮は香ばしく、身は豊潤である。最大の魅力は皮の風味と、身よりも遙かに強い甘味だ。甘味がすぐに消えないのもいい。身は端正な味である。柔らかな筋繊維が束になっていて、口の中でほどよくほどける。いけないと思いながら山梨県の一升瓶赤をロックでやってしまう。Vin rouge なので、赤 et 赤だ。
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小田原江之浦沖のやや大アジの刺身

神奈川県小田原市、小田原魚市場で年間を通じて水揚げをみると、必ず年間での魚の味の変化がわかるだろうと思っていた。たしかに個々の魚の味の、大きな波の上下はわかってきたが、いちばんわからないのがマアジとは思いもしなかった。日渉丸、江の安漁場のワタルさんが選んだ個体とか、二宮定置の山崎さんなどの若い衆が選んでくれた固体は時季に関わらずおいしい。結果、大きさによる味の違いがわからなくなってきた。結果、時期はずれ期間がはっきりしなくなっている。5月、6月は当たり外れがない時季ではある。でも、この時季が相模湾西部の旬だとも言い切れない。漁場によるずれがあるのである。小田原随一の目利き、仕立てのプロである、江の安漁場のワタルさんが選んだ固体、江之浦漁港前のマアジなので、食べる前から結果はみえている。脂のいちばんのる時季は少し後だけど、水揚げ15時間後の刺身は室温に置くと、表面が脂で滲み始める。うま味はこの時点ではイマイチだけど、この時点だからこその強い食感がある。
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黄金の穴子は凄い! 天ぷら編

最近、舵丸水産は穴子(マアナゴ)に力を入れている。大量仕入れなのでいろんなマアナゴがくるが、この金色の固体は初めてらしい。そんなに期待していなかったのだけど、がしっと二つ割りにすると液化した脂がキラリキラキラだった。香ばしい衣の下に、皮のうまさがあって、その下に半液化した脂がある。身の甘さがあって、強いうま味がある。なによりも香りが素晴らしい。マアナゴは小骨がある。この小骨が柔らかいので気にならない。だから非常に高価なのだ。ただ、固体によっては小骨の気になる5P(200g)もあるけ、この金色の固体の小骨はまったく気にならない。マアナゴは金色を探せ! なのかも知れない。春菊の天ぷらと合わせて、朝ご飯を食べたら、「今日も頑張れるぞ!」なんて思った。やはり、「ありがとう」くらい言うべきだったかも。
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春の小田原、ムツ子の唐揚げ

今回はカタクチイワシと、ムツ子、ゴマサバ子を2日にわたって唐揚げにして食べた。小魚の唐揚げはいうなれば定番的な料理である。突き出しに小皿に2、3尾とうこともある。ちなみに唐揚げの料理店の料理としての地位は、西日本で高く、東日本で低い。西日本では御馳走で、東日本ではなんとなく注文するものでしかない。西日本の料理人は積極的に作るが、東日本では嫌う料理人が多い。さて、今回唐揚げ3品の第一弾がムツ子である。まだ温もりのある内に口に放り込んだ。非常に上品な味わいで、身にも味がある。冷めたら香ばしさが増して、スナック菓子のような感じになる。味わい深く、上等すぎるスナック菓子である。唐揚げとしては特徴がないのが残念であるが、ついつい箸が伸びる。今回は揚げて塩味(しおあじ)だけだが、これが正解だった。ムツの唐揚げはたいへん軽い味なので、コショウもなにもいらない。こんなにさくっと軽いとは思わなかった。ひとつかみではなく、もっと持ち帰ってきてもよかった。飲み物は、まだ逢魔が時なので凍頂烏龍茶。
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クロダイのカルパッチョは一枚の絵なのだ

初めて魚のカルパッチョを食べたのは、昔々その昔である。サッカー人気が話題になっていたときなので、ほんまに昔だろう。そのときのものは魚の生の切り身を皿に並べて、上に彩りよく香りのある野菜やハーブを並べてお絵かきをするといったもの。ものすごくにんにくがきいていて、テーブルの上で追いオリーブオイルをかけてくれた。以来、そのときに何軒か回った店のスタイルに従っている。ボクの作るカルパッチョは、クロダイの身を皿に馴染ませた状態など、絵描きがカンバスを張るようなものかも。その上に神奈川県秦野市で買った種なし赤ピーマンと、フルーツトマト、タイムを散らしてみた。あるだけの材料なので、とてもシンプルなものとなる。締めて3日目のクロダイの、端切れを集めて薄く切ったのでエレガントではない。今回は夏泳いだ後のような、疲れの波を受けていたのでどっさりとにんにくを使った。仕上げに追いオリーブオイルではなくライムを搾る。ちょっとだけ味は野性的である。甘い素材は今回はなし、あるときはキウイ、季節によってはラズベリーなどを使う。ただ塩とオリーブオイルとにんにくと、白コショウだけの味つけで、うま味たっぷりの3日目の、クロダイの味をそのまま堪能出来てあまりある。ちょっと濃い味だなというところを、ライムの酸味とタイムの香りが救ってくれる。おざなりに作ってもカルパッチョはうまいのだ、ということがわかる。ついつい、皿に並べてチャンチキおけさ♪ なんて唄っている自分がいる。午後2時なのに、山梨で買った一升瓶の赤ワインをロックで一杯。昼酒できないのに、浮かれ飲みして1時間だけダウンする。
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カイワリの刺身、ウマスギてこまっちゃうな

とれて11時間後のカイワリの刺身は、ボクの目の前で脂という名の汗をかいていた。出てくる汗をなめたいと思うのは、魚の脂汗だけだ。カイワリのすごいところはとったその日から味があることだ。このあたりが背の青い魚である、アジ科の魚らしさだ。個人的には味の点ではアジ科の頂点に立つと思う。
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一色産ヒゲソリダイの割り下鍋

ボクは年がら年中鍋を食べる。鍋は時間を楽しむものだ。いつもは早食いなのに、鍋の時にはゆったり時間をかけて食べることが出来るので、精神的にもよい気がする。今回の鍋は割り下で煮ながら食べるだけなので、わざもコツも不要である。まずは魚の切り身と野菜を食べる。ヒゲソリダイの身の味わい深さに恐れおののく。奇妙なくらい、煮れば煮るほどうまい。皮の部分がぶよーーーんと柔らかく、とろっとなる。甘いし、筋繊維がやけに簡単にほどける感じがいい。ちなみにつゆは時間がたつほどおいしくなる。煮汁に染まった野菜はいくら食べても嵩を感じない。こんなに野菜をたっぷり食べても、もっと食べたい気分になる。小鍋仕立てなのに野菜は山盛り盛り盛りである。終いに醤油色に染まった清洲の「かくふ」を食べて、本当に終いにする。時間をかけて食べてもいただきものの菊正宗樽酒正一合とは、我偉し。
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ムレハタタテダイ・ハタタテダイめも

ムレハタタテダイとハタタテダイは混乱期が長かった。まず最初に田中茂穂以前、石川千代松などが神奈川県江ノ島などで採取した個体を、Heniochus acuminatus (Linnaeus,1758) とする。ジョーダンの、Heniochus diphreutes (Jordan,1903) のムレハタタテダイの新記載は、標準和名決定の後である。ハタタテダイ/Heniochus acuminatus (Linnaeus,1758)ムレハタタテダイ/Heniochus diphreutes (Jordan,1903)日本列島で見る限り、ムレハタタテダイの方が一般的で、ハタタテダイの方が珍しい。本州などではハタタテダイの方がより南方系である。標準和名、ハタタテダイの方がムレハタタテダイより早いが、1903年に日本列島で普通のHeniochus diphreutes (Jordan,1903) とむしろ珍しい、Heniochus acuminatus (Linnaeus,1758) とで標準和名の再検討をすべきだった。標本としてのムレハタタテダイは東京大学総合研究博物館動物部門所蔵魚類標本リストで見る限り1909年~、だが当然ハタタテダイと混同。ハタタテダイも同様である。基本的に稚魚が多い。両種ともに1950年代まで日本列島での成魚は非常に少なかった可能性がある。ハタタテダイは我がデータベースのデジタル画像では2005年の三重県尾鷲市の成魚があるが少ない。日本列島で見る限り、ムレハタタテダイが普通でハタタテダイの方が珍しいと思われる。呼び名もハタタテダイとムレハタタテダイは共通させる。今現在、相模湾でムレハタタテダイの成魚は普通である。個人的には相模湾ではハタタテダイの成魚は見ていない。我がデータベースのデジタル画像では2002年に三重県尾鷲市の成魚。近々2025年5月09日、神奈川県二宮沖二宮定置 130mm 二宮定置。ムレハタタテダイが一般的な専門書に登場するのは1984年で、井田齊の解説による。『魚類大図鑑 南日本の沿岸魚』(益田一、荒賀忠一、吉野哲夫 東海大学出版会 1975/11/25)にムレハタタテダイは掲載されておらず、明らかにハタタテダイの中にムレハタタテダイの記述がが含まれている。ハタタテダイ/本州南岸では夏から秋に幼魚が内湾の浅所でよく見受けられる。それらは晩秋に港口部に集まり、深みに移動する。成魚は奄美以南に普通。時に数十匹の群れをつくる。『日本産魚類大図鑑』(益田一、荒賀忠一、尼岡邦夫、上野輝弥彌、吉野哲夫 東海大学出版会 1984)分布域が南北(北緯)20度より高緯度であること。生息水深がやや深い(3~180m)ことなどで区別される。井田齊(さとし)
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じゃみはまぐりの醤油煮で二合半

酒を飲みたい時もある。酒が主役で肴は脇役ということもある。そんなとき魚屋の店頭で「じゃみ(チョウセンハマグリの幼貝)」を一握り買って来る。ど深夜にざざっと料理して、酒を用意して。こんなざざっと料理が、デスクワークの末の夜酒にもっとも相応しい。面白いもので酒蒸しにして、酒だけでの味つけですらチョウセンハマグリの身は甘味が強いが、醤油・みりんが加わるともっと甘味が増す。わたの濃厚な味、足の食感がくるとたまらない。箸もなにも使わないで、1個手に取っては貝殻ごとしゃぶり、酒で流す。神奈川県の「松みどり」はとてもソフトな飲み口だけど、やけに合う。疲れ果てた、末の夜酒に、二合半。
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刺身のうまさに、クロダイはまだいけるとぞ思う

5月9日の神奈川県小田原魚市場はアジであふれていた。名物といってもいいカイワリもたくさん揚がっていて、活況を呈していた。箱にも、活魚槽にも、この時季多いのがクロダイ(西日本のチヌ)である。活魚槽をのぞくと、手頃なのがいたので、さんの水産さんにお願いして買って頂く。体長37cm・1.5kgの雌で卵巣は非常に大きく膨らんでいたが、ばらけ感はなかった。ちなみに刺身にするなら活魚。加熱するなら活け締め、野締めでも可、だと思っている。いずれにしろ高い魚ではないので、そんなにガタガタ言いたくはない。近年魚価が全般に上がっているが、白身魚はおしなべておいてけぼりになっている。これは白身魚(昔の白身魚で、キチジや目抜け類、アカムツは含まない)全種の価値の下落だし、白身魚に対する国内の料理人、消費者の間違った認識による。その点からしても「クロダイは安い」と、他の白身魚と比べないで無闇に言う人がいることに驚く。ちなみに活魚は決して安くはない。午前、6時過ぎを小田原魚市場で締めてもらい、血抜きしたものを昼過ぎに刺身にすると、身に張りがあり、食感が心地よくてうまいとは思ったが、歯が立たない。一度、仮眠をとって、午後8時して食べたら、俄然おいしくなっていた。そして午後10時に夜酒のともに刺身して味が◎となる。そして翌日の、今はもっとうまくて、ご飯の友としたので、飯がすすんで危険だと思ったほどだ。うま味濃厚で、しかも食感が心地よい。うまいクロダイの刺身で、飯を食う時間はいい時間だ。これなら5月中に、もう一度買ってみよう!
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小田原の朝ご飯、土曜日はカレー

2025年5月3日、土曜日なので、港のおっかさんのところはカレー。連休中なので店は混んでいた。ちなみにボクたちが行くのは8時前だ。この時間、当日の魚はまだ来ていない。市場人以外は、少し後の方がいいのだよ。おっかさんのカレーはちょっと辛口だ。期待でわくわく。でもボクのお腹を見て、小森和子が出て来た。あとで涙がぽろぽろぽろりんこ。黙っていても大盛りが出てくる、お腹になりたい。
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5月、北海道噴火湾からオオズワイ雌

当たり前だけど、魚介類は年間を通して食べないと、その魚介類の味はわからない。特に甲殻類十脚目短尾亜目ケセンガニ科オオズワイガニは、食べている量も少ないのでがんばるしかない。ただ往々にしてうまいので、苦ではない。今回の北海道産(たぶん北海道日高周辺)雌は気になって致し方ないので、買ってみた。
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ヒゲソリダイの塩焼きで思い出す

愛知県知多郡阿久比町『項明水産』、鈴木項太さんにいろいろ送って頂いた。中にヒゲソリダイがあった。1キロ上でしっかりと締めている。以上は以前にも書いた。腹の部分の塩焼きを作っていて、『かもめ食堂』(2006年)という映画のことを思い出す。待つのが仕事のような仕事だったので、この映画を見てしまったのだ。面白い映画だなと思ったけど、それ以上に気になる点があった。仕事で見ている女子にお願いして、その箇所をもう一度見た。「やはり間違いない」。たぶん養殖されたタイセイヨウサケ(サーモン)だと思われる切身に振り塩をして、すぐに焼き始めている。絶対に間違いとは言えないが、尺からしてこうなったのやも知れぬが、料理監修の面からしてどうかな。以上はかれこれ20年も前のことなので、不確かかも。海水面養殖なので、タイセイヨウサケの体内塩分濃度は高いはず。振り塩をしても馴染むのに時間がかかる。塩がきかないまま焼いたら、表面だけ塩からいだけでしかない。塩と魚の本体とが味の点からしてばらばらじゃないかな?淡水魚は体内の塩分濃度が低いのですぐに塩が馴染む、のとは違う。なんて考えながらヒゲソリダイの腹の身に振り塩をして、待つ間、保存画像にテキストを加えて保存するなどして、ちょうど1時間で焼き始める。一般家庭なのでガス台のグリルで焼き上げる。愛知県一色産のヒゲソリダイは今まさに脂が乗っていて、旬なのである。皮目のうまさは、過去には、イサキ科だったことがあるので、イサキのように独特の好ましい風味があり、皮だけでも御馳走である。ほどよく繊維質の身の甘さよ、強いうま味よ、と思わずつぶやいてしまう。これにて頂き物の、菊正宗樽酒を正一合。項明水産、鈴木項太さんに感謝致します。項明水産https://komeisuisan.com/
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旬に突入したホウライヒメジの刺身・皮霜造り

愛知県知多郡阿久比町『項明水産』、鈴木項太さんにいろいろ送って頂いた。中に比較的小振りのホウライヒメジが入っていた。小さいのに触っただけで上々であることがわかる。非常に硬いのである。5月から夏にかけてはホウライヒメジの時季だ。早速、刺身にして皮霜造りにして楽しんだ。いかにも5月だな! という刺身の色だ。小型なので曇りガラスとまではいかないが、身色が薄濁りになっている。濁りの原因が脂なのだ。ホウライヒメジの味の特徴は甘味が強いことだが、事ほど左様に甘い。しかもうまい!こんなにウマスギだと困っちゃうという味である。
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倉橋島の魚、目の下1尺半、マダイの炊き込みご飯

4月24日、広島県呉市倉橋島、『日美丸』、平本勝美さんにいろいろ送って頂いた。当然、中には倉橋島名物の鯛(マダイ)が入っていた。全長50cm・2㎏上は目の下一尺半である。桜は散り、5月、6月の産卵盛期を迎えようとしている時季だ。これを骨を残して総て料理し尽くす。4月29日に炊き込みご飯を作った。4月後半から狂乱の魚祭、貝祭だったので、炊き込みご飯のようにあっと言う間のご飯がよかったのもある。
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ヒゲソリダイの、旬はこれから、だ

愛知県知多郡阿久比町『項明水産』、鈴木項太さんにいろいろ送って頂いた。中にヒゲソリダイがあった。1キロ上でしっかりと締めている。まずは刺身で食べてみる。わさびもしょうがもなし、醤油すらつけずの刺身一切れで思ったのは、ヒゲダイの仲間(ヒゲダイ属でセトダイ、ヒゲダイなど)が旬を迎えつつあることだ。一切れなのにぎょうさんうまい、と言うしかない。いきなり脂を感じるとまではいかないが、ねっとりとして、ほどよい脂が舌にへばりつく。ほんの少しだけ磯臭みがあるが、これが本種の持ち味である。この磯臭みは脂がのっていくると完全に消えるが、それはそれでもの足りなく感じる。だいたい醤油とわさび、しょうがで完全に消えるといったもので、味に膨らみをつける素でもある。ご飯の友としたが、身の甘味がご飯と合う。
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三浦半島東京湾のマアジの刺身に時季到来を感ず

今年に入って最高のマアジだと思う。予想していたことだけど、最初の一切れを食べて、予想以上だった。正確に言えることは、東京湾だけではなく、日本全国、マアジの季節到来である。鮮度が非常にいいのに切りつけた身が柔らかいのは、当たり前だけど脂が身に混在しているからだ。ちなみにマアジでも脂べっとりといったものがあるが、個人的には身にほどよく混在するのが好きだ。今回はしょうが醤油で素直に食べたが、困ったおいしさだった。これにて、頂きものの、菊正宗樽酒を正一合。こなから、は遠し。
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愛知県新城市『さかえや』の桜餅など

オヤジでもジジイでもだれでも気軽に入れる、昔ながらの甘いもん屋を探して東奔西走。急激に減少している個人商店を大切にしたいのもある。愛知県一色への旅の帰り道、新城市で和菓子店を見つけた。新城市、『さかえや』という小さな店である。新城市は長篠のある町というくらいの認識しかない。信濃から東海、尾張地方への道筋に当たるなど、こんどじっくり歩いてみたい町である。小さくて素朴な店だが、入ったら品揃えがいい。正面には落雁がきれいに並んでいる。あんこ族なのでできるだけあんこものを選び、話を聞くと、やはり飾ってある落雁などで有名だったらしい。買い求めたのは、田舎ういろう、桜並木、桜餅(道明寺)、柏餅、酒饅頭、野田城巻。
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サラガイのチャーハンとそばつゆで作ったワカメ汁

マルスダレガイ目マルスダレガイ科スダレガイ属の二枚貝を同定中なので、机の上が図鑑、専門書10冊と貝殻でいっぱいいっぱいになっていた。要するに、悪戦苦闘していたのである。猛烈に頭が忙しい最中なのに腹が減る。お腹と背中がくっつくぞ、となり、冷凍庫を漁る。見つけたのは正体不明のこれまた二枚貝の剥き身だ。これを解凍する。ご飯をチンして、ねぎを刻む。卵を割ってかき混ぜる。鉄のフライパンを熱して、卵を入れて、片面が焦げたら剥き身とご飯を同時に入れる。炒めたら加減をみて(貝に塩気があるので)塩コショウ。さらに炒めてねぎを散らして、またまた炒めて出来上がり。同時にそばのつけつゆを水で割って温めて、わかめの汁を作る。
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5月のブリはまだまだうまいし、安いし

神奈川県小田原市、小田原魚市場、定置網の水揚げを見ながら考えた。5月の今こそ、ブリ(関東でいうワラサ5キロから8キロ以上)を食べよう!昔の冬の定義は旧暦の10月〜12月で、だいたいだが新暦の11月後半から2月1日前後だ。気象庁の、冬の定義は新暦の12月から2月いっぱい。ブリの旬は旧暦・新暦も考えないまま、ばくぜんと冬だと思っていないだろうか?実は旧暦にしろ、新暦にしろ、冬には、それほどブリが揚がるわけではない。ちなみに定置網で、ブリがたくさん揚がりおいしい時季は北海道では、新暦(今のカレンダーで)8月後半から10月くらいまで。本州でも比較的北では冬の、新暦(今のカレンダーで)1月半ばから3月、南に下がると新暦(今のカレンダーで)3月から5月くらいまでなのだ。
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倉橋島の魚、イネゴチの潮煮

4月24日、広島県呉市倉橋島、『日美丸』、平本勝美さんにいろいろ送って頂いた。中にイネゴチが入っていた。倉橋島では「蛇鯒(ジャゴチ)」という。体長40cm・567gなので、やや大きめだ。これを刺身にして味のよさにびっくり。潮煮にして、またビックリ仰天する。おいしいのである。潮煮は濃く取った昆布だしと酒・塩だけで煮るのだけど、イネゴチから出るうま味と合体して生まれた汁のうまさを堪能する。皮は無残にも溶けてしまうものの、身がほろほろ脆弱で甘い。イネゴチの身に、こんなに味があるとは思わなかった。きっと倉橋島周りのエサがいいのだろう。また島の多いところで潮の流れが強いからかも知れぬ。
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三重県熊野産皿丈のトマト煮込み

八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産の隅っこにイカ(スルメイカ)の箱があった。1ぱい30g前後で、市場ではバライカというサイズよりも小さなサイズで、昔はよくみかけたものだが、最近はめったに見かけることがない。「いくらじゃ?」ときいたら、「エサに買ったヤツだから。少し持っていっていいよ。全部はだめだかんな」と返された。くれるということらしい。せっかくくれるというので、たっぷりもらって来た。銭州のシマアジの上前をはねるとはこのことだ。これで朝ご飯に作ったのがトマト煮込みだ。東京都山手線、目白駅構内に浅野屋を見つけて、買ったバタールと合わせて、とてもおいしい朝ご飯となる。それにしても駅構内に四谷、『浅野屋』の支店があるなんて、さすがに超高級住宅街だな、と思う。ルビーポートで少し甘めに作ってみたが、実に味わい深く、滋味豊かだ。トマトのグルタミンとイカの風味・うま味が一緒になると、最強かも知れない。イカを丸ごと使ったので、見た目は薄汚れた感じだけど、その汚れた分、味はいい。パンに乗せて食らうと、お腹にすーっと消えて行くので朝ご飯にぴったりである。パセリ代わりに使ったギョウジャニンニクの葉が、これまたとてもいい香りを放つ。
高梁市,魚屋
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倉橋島の魚、ヒラの塩焼きとつけ焼き

広島県倉橋島のヒラを目の前にして、岡山県の話をするのはおかしいかも知れぬが……。昔、岡山県高梁市を縦に横に歩いた。家並みがきれいで、「どこから行っても遠い町」な、ところだった。知らない町なのに人恋しくなる、町だ。富山県の城端とともに、もう一度歩きたい街角・曲がり角のあるところでもある。逢魔が時に、ボクと同い年のオバチャンに会って、ヒラの話を聞いた。近くでヒラの骨を切る音が聞こえたので、話しかけやすかった。「ヒラは焼いた方が好き」だという。どうやら1970年という食文化の大変動以前の人間にとって、ヒラは刺身などでも食べるけど、基本的に焼くか煮るか、どちらかの魚のようだ。■写真は岡山県高梁市の魚屋の店頭。
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まだまだいけそう、石川県産マイワシの刺身

関東の人間は海の幸では太平洋側に気が向きがちである。だから入梅鰯などという言語を、さも全国的な言語と誤解する。4月、5月は川崎北部市場の荷受け(大卸のことで世界中から魚を集めてきて競り、相対取引を主催する)だけの話ではあるが、石川県七尾からのマイワシの入荷が盛りを迎えている。この分では七尾だけではなく、日本海全域でマイワシがとれている、気がしてきた。さて、4月30日の石川県産マイワシは、卵巣・精巣がまだまだ未熟で、肋骨に張りついた身は真っ白である。薄くそぎ切りにした刺身に醤油をかけて、しょうがとからめて、昼、ご飯の友とする。切りつけてすぐ、刺身の表面が滲み始める。口溶け感の心地よさに、よしこのが聞こえてくるようだ。温めたご飯の減りが早い。脂から感じられる甘味とご飯の甘味が口の中で結婚する。そこに醤油の味がきて喉に消える。5月1日の舵丸水産にも来ていて、料理人が争うように買っていく。日本海のマイワシの旬は春なのだが、春の過ぎ去るのが寂しい。
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倉橋島の魚、目の下1尺半、鯛の潮煮

4月24日、広島県呉市倉橋島、『日美丸』、平本勝美さんにいろいろ送って頂いた。当然、中には倉橋島名物の鯛(マダイ)が入っていた。全長50cm・2㎏上は目の下一尺半である。桜は散り、5月、6月の産卵盛期を迎えようとしている時季だ。これを骨を残して総て料理し尽くす。刺身は先にも書いた。それはともかく、久しぶりに潮煮を作る。かまの潮煮の、出来上がりにすだち丸々1個搾り込んで、後は食らうだけだ。昆布だしでことことじっくり炊き上げたもので、表面の皮から、身からして、とろりと柔らかい。器に盛り付けるときは国宝を輸送するが如し、の気持ちでなければならない身から飛び出した肩帯(胸鰭周辺)の骨をつまむとひょいっと抜ける。マダイの肩帯と腰帯周り、すなわちかまの部分の骨が大きく小骨が少ないのも魅力だろう。抜けた骨周りの身をすすり込んだら、もうそこにあるのは別世界である。皮と身は、濃厚な昆布だしとマダイのうま味が凝縮されて液体のように舌を這う。潮煮は日本料理の基本ともいうべき料理であるが、要するに昆布の味と魚の味を仲睦まじくさせるといいのだ。皮や身、煮汁をすすり込む時間が永遠続くといい、とも思う。ちなみに潮煮はご飯の友というよりも、酒と相思相愛である。できれば燗酒を用意したい。煮汁は別の器に半分入れて、ときどきぬる燗と半割にして飲む。煮汁で酒がのめるのもうれしいねー。汁も身も皮もなく、器に残ってるのは鰭と骨だけになったら、残念ながら終いである。
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愛知県豊橋市『御菓子所 絹与』の小豆羊かん

新潟県上越市で「寿羊羹」を買って食べてから、まさかの羊羹好きになってしまった。これなら赤坂某店の「夜の梅」だって、今食べたらうまいと思うかも知れない。ちなみに「あんこ」が好きで和菓子が好きなボクにとって、せっかくの「あんこ」のもとである小豆などの豆類の「あんこ」感を取り去った羊羹がどうにも許せなかった。ボクの「あんこ」ちゃんを返してくれ! と思ったほどだ。滋賀県周辺の蒸し羊羹である、「丁稚羊羹」は好きだけど、「練り羊羹」ときたら、「あんこ」様の「あんこ」であることのよさが感じられなかったのだ。でも、今、ボクは「あんこ」と同じくらい「練り羊羹」も好きだ。好みがころころ変わるのがボクのボクらしさで、ころころ変わるのが進化という名の変化である。だから食通という進化を止めた存在が嫌いなのだ。さて、『御菓子所 絹与』は豊橋市市街地のど真ん中にある。前の通りが旧東海道である。京に向かって東海道宮宿(熱田宿)手前では最大の宿、吉田宿で、吉田藩の城下町でもある。愛知県でも屈指の人口を誇り、歴史のある町だともいえるだろう。この店から西に豊橋市の老舗が多く、これが江戸時代の吉田宿の中心地なのかも知れない。そんな豊橋で見つけた『御菓子所 絹与』は享保年間創業とあるので、300年の歴史を持つ老舗中の老舗だ。昔、和菓子屋を見つけて、入って、羊羹中心の店だったら、がっかりして回れ右していたものである。でも今回は羊羹好きの新参者として、一棹(さお)買ってきた。店のお姉さんも美人でよかった。これを5日間にわたっておめざに食べる。落語家の羊羹食べのような、ヤな感じの舌触りではない。ちゃんと小豆の粒子が感じられて、歯にもつかない。小豆の渋の残り方も絶妙だと思う。小豆にはうるさいつもりだが、非常に上等なものを使い、その上等な小豆を生かせていることも明白。羊羹は高いものだが、5日で割れば安いものだ。豊橋に行ったら、必ず『御菓子所 絹与』に寄りそうである。
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一色のイタヤガイ、ツキヒガイの食べ比べ

鈴木項太さんに送って頂いた愛知県西尾市一色の、イタヤガイ科イタヤガイ、同科ツキヒガイを刺身にして食べ比べてみた。今回はちょっとだけツキヒガイの方が甘味が豊かで、貝らしい風味が優っていた気がする。でも気のせいかも知れない。それにしてもイタヤガイとツキヒガイはうまい。もちろんイタヤガイ科の食用貝は総てうまいけど、この2種はうまさのラインが刺身にして他の二枚貝より上だ。次いでヒオウギかな?といいながら、ヒオウギを食べるとまた違ってくるのが、ボクが通ではない証拠である。結論、イタヤガイ、ツキヒガイ、ヒオウギガイは同じくらいうまい。一色のすごいところは、このイタヤガイ科3種が全部揚がることだろう。
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倉橋島の魚、目の下1尺半、鯛白子天ぷら

4月24日、広島県呉市倉橋島、『日美丸』、平本勝美さんにいろいろ送って頂いた。当然、中には倉橋島名物の鯛(マダイ)が入っていた。桜は散り、5月、6月の産卵盛期を迎えようとしている時季。雄で体が黒ずんではいるものの、精巣(白子)はまだ硬く成熟度は低い。白子は明らかに食べ頃である。白子は天ぷらにした。鯛白子天ぷらは東京都内、天ぷら屋では春の定番種だと思っている。白子を揚げるとき、衣を改めて作り直してから揚げているのが記憶にある。たぶんクルマエビや「めごち(ネズミゴチ)」のための、薄めの衣をつけて高温で揚げると、火が通り過ぎる、もしくは中の白子が散るのだと思う。天ぷら屋では職人さんのなすがままに食べたことはあるが、めったに追加したことはない。その「めったに」の種が白子だった。白子はていねいに取りだし、中の筋などを取り去る。軽く振り塩をして小麦粉をまんべんなくまぶして、厚めの衣をつけて高温で揚げる。使っているのは市販の天ぷら粉(これだと技いらずだ)に氷で冷やした水で厚めの衣を作る。一般家庭なのでわざわざ神経を使って衣を作る気になれない。最近の天ぷら粉はとてもヨイヨイよいやサ、だ。揚げたてを食べる。白子の衣は厚めの方がうまい。さくっと音が聞こえるくらいでなければならない。当然、中から一瞬だけ熱々の半液化した白子がとろりとくる。舌触りは生クリームのようだけど、ちゃんと魚らしい味わいがある。残念なのは、5分以内に食べないとおいしくないことかな。鯛の白子天ぷらに敬意を表して、本物ビールの晴れ風500mlを開ける。ボクに好みのビールが出来るなんて、思わなかった。日美丸さんに感謝!
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倉橋島の魚、目の下1尺半、マダイの刺身

広島県呉市倉橋島、『日美丸』、平本勝美さんにいろいろ送って頂いた。当然、中には倉橋島名物のマダイが入っていた。倉橋島は広島市の南にある。広島側からは江田島があり、倉橋島と大きな島が連なる。呉市に統合されてしまっているが、もともとの呉との間には音戸の瀬戸という海峡がある。たぶん広島県の最南端に当たるのではないか。このあたりは、広島湾から南に島と島が重なり合い、多様な貝類、エビなどが豊富で豊かな海域である。そんな海域で、多彩な貝類やエビなどを食べて育ったのが倉橋島のマダイだ。全長50cm・2㎏上で、吻から目の下、尾の先までが1尺半。マダイは目の下2尺までがいちばんうまいと思っているが、まさにそのサイズである。桜は散り、5月、6月の産卵盛期を迎えようとしている時季。雄で体が黒ずんではいるものの、精巣(白子)はまだ硬く成熟度は低い。『日美丸』のタイ釣りは伝統的なフカセという釣法で、いわゆる一本釣りである。マダイはエサ(食べているもの)、漁法、扱う人によって大きな差が出る。そのどれ一つが欠けても、うまいマダイは生まれない。
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宮城県産目光の天ぷらで昼ご飯

市場で「目光」と呼ばれている魚は、昔は千葉県銚子以北で揚がったらマルアオメエソ、南で揚がったらアオメエソなんて摩訶不思議な話がまかり通っていた。例えば、茨城県のマルアオメエソと駿河湾のアオメエソを並べてもまったく違いがわからない。個人的には同種だとしか思えない。それで産地によって種を分けるしかなかった。この銚子以北のマルアオメエソが消滅してくれた(シノニムとなる)ことは、まことに目出度い。ただし、このアオメエソ属の画像は膨大なので、データの合体になかなか手をつけられないでいる。しかもバケがいる。この手頃なアオメエソ(目光)を一つかみ買って、八王子総合卸売センター、八百角でノビルを買って天ぷらにして、乾麺のそばをゆでて……。これがボクのお昼となりぬ。そばつゆは、めじか節厚削り節(マルソウダ)を煮だし、砂糖・醤油でつゆにして、追い鰹(かつお節削り節)をしたものだ。
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倉橋島の魚、ヒラの刺身

広島県呉市倉橋島、『日美丸』、平本勝美さんにいろいろ送って頂いた。うまいに決まっているセットだけど、本命はさておき、最強クラスの脇役から。ニシン目ヒラ科のヒラである。体長49cm・1.384kg はこの魚としては小振りである。魚類に興味のない人にとっては巨大なニシンのような魚で、北海道でも見つかっているが、あえて言うと瀬戸内海周辺、有明海周辺の魚といいたい。この魚、広い内湾域がないと産卵できないのではないか、と思っている。この点からも、自然破壊だけしかやらない、企業や行政や政治家達は、ヒラだけではなく、地球にとっても敵である。
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増毛産「ぼたんえび」に満足満足!

八王子卸売協同組合、舵丸水産に北海道増毛から特上の「牡丹海老(ぼたんえび)」が来ていたので、味見用に1尾買う。一般的に「ぼたんえび」というのはトヤマエビのことだ。日本海と北海道以北の深場にいる大型の美しいエビである。標準和名(図鑑などにのるときの)ボタンエビは近縁だが別種なので要注意。もちろん標準和名のボタンエビだってやたらにうまい。
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石川県産マイワシの刺身ではなく、なめろう

生の魚とみそとたたいたものは、「みそたたき」ともいい、「なめろう」ともいう。どっちでもいいのだけど、今回は酢で食べたので、千葉県南房での料理名、「なめろう」としたい。千葉県千倉の漁師さん、食堂のオカミサンに教わった食べ方だからだ。最初は酢をつけないで食べてみる。口に入れると、まことにあっけない。噛み応えがなく舌の上で溶ける。脂のりすぎ、といった感じである。疲れから大量投入したにんにくの存在が感じられない。感じられるのはみょうがだけだけど、それだけマイワシの存在感が大きい。荷の作りから石川県七尾産とみたが、富山湾ではなく、七尾湾に入り込んだ群れやも知れぬ。このように思いを馳せるのも楽しい限りなのだ。さて、食べてはやや控えめに酒をあおり、あおりして食べ進んでいったら、皿の上がきれいになってしまっていた。明日の「さんが焼き」はなし、となる。
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煮干しは絶品。ネンブツダイとクロホシイシモチ

未利用魚、未利用魚と騒がしいが、未利用魚がわかっている人はいない。未利用魚は奥が深く、まだまだ定見がない。ここに未利用魚の基礎知識を始めていきたい。最大の問題点は未利用魚の定義が曖昧なことだ。未利用魚問題は、巨大なデータを見て初めてわかるが、国内を見渡す限り、どこにもそんなものはなく、あえて言えば我がサイトが一番大きい。また、魚価を知らなければ、未利用魚はわからない、が、そのためには、日常的に魚を買わないとダメだが、そんな人間見た事がない。当然国内各地で聞取をする必要があるが、例えば漁業者に聞いてもいいが、加工品業者、買受人(大卸・仲卸)、小売業の話も重要であり、消費者も重要だということを忘れている。いちばん未利用魚がわからないのは行政、そして漁業者かも知れないと言う事実を知るべきだ。最近、未利用魚にマイナー魚を加えるなど、驚くほど愚かな人間すらいる。今現在のところ未利用魚とは、比較的水揚げが多く、お金にならない魚のことである。高知県や徳島県で、「赤じゃこ」とか「はりめ」と呼ばれている煮干しが作られている。原材料はスズキ目テンジクダイ科のネンブツダイとクロホシイシモチである。
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愛知県西尾市『すずみそ』の「豆つぶ」

愛知県は県全域が食材の迷路、迷宮である。スーパーに入ると必ず面白くて、使える食材に行き当たる。この独自性こそは愛知県だと思う。ちなみに愛知県といっても広すぎるし、人口もすごく多いので、地方ごとに分けた方がいいとも考えるが、その分け方がわからない。さて、『すずみそ』の西尾市は西三河になるが、ここには豊田市も含まれるのである。西尾市と豊田市はまったく色合いが違う。また西尾市でも矢作川近くと、幡豆町(はずちょう)では違う。『すずみそ』は西尾市というよりも幡豆町にある、と言った方がわかりやすい。三河湾に面しており、愛知県なので当然の如く、味噌は大豆麹大豆味噌で、大豆と塩だけで作る味噌の食文化圏である。
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竹の子とウスメバルで、「竹の子眼張」

東京では、たぶん江戸時代くらいから、千葉県外房以北の沖合いでとれるウスメバル(スズキ目カサゴ亜目メバル科メバル属)のことを、「たけのこ」とか、「たけのこめばる」といいった。たぶん竹の子がとれ始める頃に旬を迎え、たくさん入荷してくるからだろう。浅い場所にいるメバルは、「黒めばる」と呼ばれていた。こちらは分類的にはクロメバル、アカメバル、シロメバルの3種のことだ。こちらも竹の子との相性がよく、竹の子の時季に旬を迎えるので、「竹の子目張」といってもいいかも知れない。ただ、1980年代後半に築地場内で、「竹の子と煮る」というと黙ってウスメバルが出て来た。1984年、『土井勝 魚のおかず』の「メバルの煮つけ」で竹の子と合わせているのもウスメバルだ。東京では竹の子と合わせるのはウスメバルが主であったと考えている。昔は浅場にいるメバルと比べると、沖合いにいるウスメバルは味的に落ちるなんていう人がいたが、今、そんなことを言う人はほとんどいない。こんなことを言って通ぶる人は嫌いである。ボクは、みな同じようにうまい、としておきたい。話をややこしくしそうだが、念のために標準和名タケノコメバルという魚がいる。メバルにもウスメバルにも似ても似つかぬ魚で、見た目はあんまり美しいとは言いがたい。魚類学の父、田中茂穂は「竹の子のとれるときに旬を迎えるので、タケノコメバルなのだろう」とあるが、明らかにこれは間違いだと思う。ちなみに他にも同じ事を言う魚類学関係の人がいるが、ちゃんと食べていないのだと思っている。タケノコメバルは、体の模様が孟宗竹の竹の子の皮に似ているからタケノコメバルだ。
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「めばる学」01 江戸時代の眼張

「めばる」と呼ばれた魚は多種であり、時代とともに変わっている。『本草綱目』(1596年、明の李時珍の作った人に有益な動植物鉱石などの百科事典)が、江戸時代初めに国内に持ち込まれる以前に生き物を詳しく述べた書はない、と考えているので、「めばる学」は江戸時代から始めたい。江戸時代にはこの『本草綱目』に習って様々な書が作られる。これを本草書とする。〈目張魚 正字は未詳 △思うに、目張魚の状は赤魚に類していて、大へんみ張った目をしている。それでこういう。……播州赤石(明石のこと)の赤目張は江戸の緋魚(たぶんアコウダイ)とともに有名である。……黒目張魚 形は同じで色は赤くない。微黒である。大きなもので一尺あまり。赤黒の二種ともに蟾蜍(ひきがえる)の化したものである。〉『和漢三才図会』(寺島良安 東洋文庫 平凡社 正徳2年 1712)〈めはる 状あかを(緋魚)に似て、目大にはり(張)いだし、闊口(おおぐち)ならず、味わいほぼ同じ、赤黒の二種あり諸州に多し〉『魚鑑』(武井周作 天保辛卯 1831) この2書が江戸時代の本草書の中でも「めばる」にはいちばん詳しい。『和漢三才図会』は江戸時代の絵の入った百科事典と考えるべきで、『魚鑑』は魚に特化した辞典的なものだ。『本草綱目』に「めばる」はないので、「眼張(めばる)」は俗である。「めばる」の体色は赤であること、口はそんなに大きくないことから、現在のカサゴとウッカリカサゴ(メバル科カサゴ属カサゴ)に当たる。「黒目張魚」が現在のメバル3種(クロメバル、アカメバル、シロメバル)だろう。この4種の特徴は目がまん丸で大きく、口はそんなに大きくない。大きくなっても一尺あまり(全長30cmほど)にも当てはまる。■写真はカサゴ。
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安乗のマアジはやたらにおいし

三重県志摩市へは何度か行っているが、安乗漁港のある安乗崎には行ったことがない。魚を食べるということは、知らぬ町を旅する如きである。また、志摩市内ではマアジを買ったことがあるし、食べたこともあるけど流通してきたものを手にするのは初めてだと思う。刺身にすると、思った以上に脂がのっていることがわかる。皮下に脂の層が見えるし、舌に乗せたときの脂の口溶け感があり、ねっとりと舌にからみつく。鮮度がいいので食感もいい。水氷(氷入りの塩水の中に魚を入れてある)に見えたので、値段は並かも知れないけど、味は上といえそうである。小さな真子を持っていたので産卵はまだまだ先で、志摩のマアジは旬を迎えているようだ。
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一色のイタヤガイであっと言う間のグラタン

愛知県西尾市一色から持ち帰ったイタヤガイ科イタヤガイでグラタンを作る。ホタテガイと似ているイタヤガイはホタテガイよりも一回り小さい。ホタテガイはどこでも手に入るがイタヤガイを手に入れるのは大変である。でも、手に入れるためにどんなに苦労しても後悔しない、うまし二枚貝である。同じくイタヤガイ科のホタテガイと比べてると貝柱の大きさでは負けているが、味は上。この豊かなうま味と適度な食感を備え持つ、イタヤガイのグラタンは大御馳走である。だれが作っても簡単に作れるし、食べても矢鱈にうまい。一度食べたら、何度でも、ときどき,無性に食べたくなるはずだ。とろっとろのホワイトソースにからんでも、やたらにうまいエリンギと一緒になっても、イタヤガイの存在感は大きい。ホワイトソースとソテーしたイタヤガイの層との境目が、グラタンを混ぜ込みながら食べることで融和する。この混ざり込み具合を見ながら、加減しながら食べる。クロワッサンでもあるといいお昼になる。
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気温25度を超えても、まだ春なのでアジの天ぷら

ビールを買いに近所のスーパーまで歩く。夕暮れ時なのに腰に付けた温度計は27度。念のためにもう一度見直しても27度だ。「晴れ風」という、不思議な名の新しいビールを飲むために、天ぷらを揚げて、揚げたてに、「晴れ風」。贅沢で飲む、といったもので、ハレの日のビールと言ってもいいだろう。「鯵の天ぷら」は中村武志(国鉄職員で小説家。1909-1992)の「目白三平」にも出てくるので、東京では至って普通の料理のようだ。ところが、アジフライはどこでも食べられるが、天ぷらを出してくれる店は少ない。当然、自分で作ることの方が多い。アジの天ぷらは高温以上の高温で短時間揚げるに限る。かぶりつくと表面の衣が音を立てるくらいがいい。その分、中がしっとりと柔らかく、マアジの背の青い魚特有の濃厚なうまい汁が舌に広がる。こごみの天ぷらも春の味。竹の子の天ぷらも春の味。るらんるらん、な気分で「晴れ風」500ml2本とは贅沢だな〜。
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「磯つぶ」とはエゾバイのことである

巻き貝は、一般的な生活をしていると食用として遠い存在でしかない。唯一身近な存在がサザエだと思うが、他になにか、というと出てこない人が多いはずだ。そんな食用巻き貝の代表的なもののひとつがエゾバイである。エゾバイはエゾバイ科エゾバイ属エゾバイ(Buccinum middendorffi、市場では「磯つぶ」)なので、「蝦夷=北」の「蛽=巻き貝」を代表するものと言っていいだろう。貝殻の巻き始めを上にして立てたときの長さは5cmほどなので、とても小さい。小石のようにごつごつして貝殻が硬い。『日本近海産貝類図鑑 第二版』(奥谷喬司編著 東海大学出版局 20170130)に東北以北の潮間帯(潮の満ち干で海水に使ったり干上がったりする浅場)に生息しているとあるが、東北に本種がいるとは思えない。探せば見つかる程度にはいるのだろうか? 主な産地は北海道太平洋側である。北海道日本海側にはいないはずだし、内浦湾(噴火湾)からの流通も見ていない。ちなみに日本の貝類図鑑は主に貝の収集を行っている人達のために作られている。貝殻偏重で、その貝自体に興味のある人のためではない。北の貝は収集の対象ではないので、かなり長いこと北の貝に関しての、生息域などなどの進歩が見られないのが残念でならない。
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関東の上アジの主役、沼島産

関東には大きな荷主(大卸で日本各地水産物を集めてくる)がいくつもある。それぞれ荷受けで得意とする地域があるが、兵庫県淡路島だけは全荷受けが仕入れてきている。特にマアジは他の追随を許さない。マアジにも並(味が悪いというわけではない。むしろ味的に上だったりする)と上がある。上アジは産地が限られている。並は島根県以西、九州が主産地である。東京などでのすし職人は、片身2かん(体長20cm)くらいを好んで使う。料理人もこのサイズが好きな人が多い。だから淡路の釣りアジがスポットライトを浴びる。ただ、4月はまだ早い。沼島(淡路島の真南にある島)のマアジが本格化するのはこれからである。切りつけたものを口に入れても脂は少ないので、口溶け感はない。脂がない分、マアジらしい味がある。舌の上にのせても味的にだれを感じない。「沼島はいいな」と思う瞬間である。今季初めて買ったみょうがをくるりと巻いて、ご飯に乗せると実に味わい深い。近年、季節を感じると悲しくなるが、このマアジなどまさに悲しみの種である。季節を感じる食べ物しか食べないつもりだけど、うれしいような悲しいような。これからは島根県の巻き網もの、定置もの。山口県の瀬つき、佐賀県・長崎県、鹿児島県など、マアジに困らない時季を迎える。
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S&B味付料理用カレーは素敵

家庭料理はこだわりのない人が作った方がうまい、と思っている。調味料はこれじゃなければならない、とか、●●がなければいけないとか、うるさい人に限ってまずい料理を作る。昔、古い料理本をくれる人がいて、こだわりの料理を散々食べたが、どれもおいしいとは思わなかった。最高の食材、高い調味料、新鮮な野菜とバブル期そのものの料理だった。古い『専門料理』を大量に頂いたので、こんなことを言ったらバチが当たると思うけど、極楽までは届くまい。だいたい、そのような頑張りが見える料理を食べると味がわからなくなり、肩が凝る。日本中を回っているので、いろんなところで手作りの料理を食べているが、意外にもチャチャチャっと作った料理の方がうまい。料理はなんとなーく♪ 作るものだ。こだわりよりも、手抜きこそ、家庭料理の本道だと思う。このカレー粉も発見したときはやたらにうれしかった、ものだ。群馬県吾妻郡の農家の老人(ボクはそのときの、この方の年齢を超えている)が使っていたもので、すぐ真似をして買った。もう何年使っているのか忘れたが、必ず、常に、あるといったものだ。缶入りのカレー粉は使いにくかった。一振りするだけで使えるし、おいしいし、S&B味付料理用カレーは素敵だ。
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新物に喜びも半分の、ヒジキかな

一色漁港(愛知県西尾市)の競り場に、新物のヒジキ(蒸しただけのもの)が並んでいた。それを前に、買い悩んでいた買受人が少なくなかった。高すぎるのである。新物のヒジキが欲しくて街中でスーパーをめぐったが探せど見つからない。豊橋市のスーパーでやっと三河湾産を手に入れた。今じゃ、ヒジキはとても庶民的とは言いがたい。旅先でなければ買わない値段である。温暖化のせいかも知れないが、海藻類の高騰がとまらない。海藻の減少は過度な治水、自然海岸の減少と正比例する気がするのはボクだけかな。毎年新物は買うことにしているが、たぶん2005年の2倍位している気がする。今回のものは海辺で蒸し上げただけのもので、乾燥工程は経ていない。この三河湾産の新物は非常に太く、柔らかくて、このまま食べてもおいしい。今回は久しぶりに、油揚げ(辻豆腐店 豊橋市)と煮た。「そうだ節削り節」のだしに、醤油と砂糖の味つけで、酒・みりんは使わなかった。柔らかくたいて、優しい味わいに仕立てた。ご飯の友になるぎりぎりの味の濃さである。新物のヒジキは、毎年思う事だけど、うまいとしかいいようがない。蒸し上げたり、煮たりして冷凍したもの、乾燥させたものにはない味がある。これをどっさりご飯に乗せる。春よ、ご飯と一緒に胃袋まで届け、なのだ。
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岸和田産トドの刺身に大阪湾を感じた

刺身は口に入れてしばらくは、野締めなのに臭味はほとんど感じられない。ただ、終いの方の臭味はどうしても気になる。岸和田産というと巻き網のものだろう。野締めで来ても大阪湾のボラにほとんど臭味がないことが大発見である。2005年に泉佐野市で買った活けはおいしかったけど、野締めはダメだったことが思い出される。わさび醤油で食べてみると、どうしても臭味が残るが、野締めなのでボラだからということではない。あれこれ考えて、韓国風に胡麻油と塩で食べる。辛味が欲しかったら一味唐辛子などを振るといい。この韓国風の食べ方をすると臭味はまったく感じられない。ボラらしい濃厚なうま味が感じられる。念のために酢みそをつけてみたが、これもイケてる。大阪湾のボラは食べ方次第で実にうまいもんだ、なんて独りごちる。もともと魚があまり好きではなかったボクなので、かなり臭味には敏感であるが、大阪湾のボラはうまいが勝つ。ボラのおいしさの表現は難しいが上等のコイの刺身にも煮ているし、スズキの刺身にも似ている。でもやはりボラの味だなと思う。また見つけたら買わねばならぬ、大阪湾のボラだ。合わせた酒は、愛知県設楽町『関谷酒造』の蓬莱泉秀撰で、いい時間が過ごせた。
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貝類の同定は大変であーる、一色の貝類

愛知県西尾市一色から連れて帰ってきた貝殻に埋もれて、時間を忘れるし、食事は金ちゃんヌードルだし、で大変だった。過去の写真データ在庫まで遡る必要があるので、計4日間も要した。
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愛知に行ったので、そうだ節でかき揚げを作り、きしめんに乗せる

愛知県は三河地方と尾張地方に分かれている、とするのがいちばん単純だと思う。でも行く度にその区分ではとても納まりきらないものがある、ことに気づく。両地域に比較的共通するのが豆麹豆味噌かも知れない。溜まり醤油もあると思う。そして、もっとも気になるのが、愛知県の節文化、取り分け「そうだ節(マルソウダの節)」である。外食に限って言えば、東京の「さば節(ゴマサバ)」、愛知の「そうだ節」と言えそうである。今回は豊橋市を中心とする東三河地方のスーパーめぐりをしたが、どこにでも「そうだ節厚削り節」とか「あじ節削り節(ムロアジ類)」、「かつお節削り節」があった。しかもどこのものも上質である。愛知に行くたびに脳みそがパンクするのは、愛知県の地域別特性を調べるには、人生が2回あっても足りないと思うからだ。余談になるが、高知県土佐清水市で聞取した限りでも、「そうだ節」の最大のお得意さんは、愛知県だという。名物の「きしめん」、豊橋市の「にかけ」のつゆのベースも、混合節だけど、「そうだ節」の存在感が強い。
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マイワシの蒲焼き丼に素麺入りのみそ汁

フライパンで魚などをソテーし、一度取りだし、フライパンに酒・砂糖・醤油などを加えてたれにする、というのは、1970年前後に書籍にのった料理だと思う。いまじゃ、家庭料理の定番だろう。これ誰でも考えられそうな料理だけど、最初に作った人はとても偉い。
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塩釜産本マ、筋多きところの魚すき

鍋に季節感のないボクなので、材料があるときが鍋どきである。サラダはあまり作らないが、鍋はよく作るといった感じかも。要するに野菜を食べたいから鍋を作る。ちなみに魚すきにはコンニャクが欲しかったけど、なかったので諦めた。魚すきにもっとも必要なのは玉ねぎと、コンニャクだと、もちろんボクだけの話だけど、思う。煮えたブツの何がうまいかというと、筋が滅法うまい。煮えて柔らかくなったブツの芯の部分に筋が残るが、これだって柔らかく、濃厚な味を放出する。本当は筋だけで鍋にしたいがそうもならぬ。これがちょっと甘めの割り下に絡むと、得も言われぬといった感じになる。この時間が楽しいし、時間の流れていくのが惜しい。ちなみに玉ねぎは最初の生っぽいのもうまいが、醤油色に染まったのは、もっとボク好みである。七味唐辛子を用意したが、ついついふり忘れる。今回の魚すきは東京都青梅市の「澤ノ井純米酒」と合わせた。ただ、本当の友はご飯である。終いの方に玉ねぎを多めに入れて、そのまま鍋止めにする。これが翌朝のご飯のおかずになる。
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マイワシの塩焼きでバゲット半分

4月になってずーっと、手っ取り早いので、塩をして保存して置いたマイワシを飯どきに焼いては食べている。逢魔が時などにビール(偽)を飲むときにも、焼く。毎日毎日、焼かれてはボクのお腹に入る、マイワシってすごいやつだ、なんてヒトは勝手に思うものでもある。4月15日の段階でまだまだイケているということは、山陰産は4月いっぱいは楽しめるかも。この季節によって、産地を変えながら楽しめるのは、東京ならではだろう。本日は事務処理で駅前に出た。パン屋で平凡なバゲットをかって、これまたマイワシを焼き上げる。スプーンでほぐしてレモンを大量にたらし、焼きたての温かいバゲットに乗せて食べる。バターなど加えていないのに、脂がバターのように液化してバゲットを湿らせる。なんだかマルチェロな気分なのは、愛川欽也の影響かも。ドロンだよな、なんて深夜の電波の世界を懐かしむ。このマイワシの塩焼きにバゲットはデブにはとても危険である。ついつい食べすぎる。今回は凍頂烏龍茶だったから、よかったものの、冷やした一升瓶の赤ワインだったら、焼いてはバゲット、焼いてはバゲットで止まらなくなる。午後の仕事はなし、となる。注/バゲットに乗せた塩焼きの写真を撮り忘れたのは、おいしすぎたから、だ。
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4月になればマアジ時季到来となる

マアジに関しては大小にかかわらず、良し悪しがあり、小さいからいいとも、大きいからいいとも限らない。大分県産は比較的大形が多く、下氷(氷を敷いて魚を並べる)が基本である。この仕立てを見ただけで産地がわかる、というのも大分らしいところだろう。ちなみに並アジと今回の上アジで、買ったその日だと味は互角である。並上の違いは翌日になって初めてわかる。大分ものは年間を通じて、ていねいな仕立てであるが、さすがに寒い時季のものは脂が少ない。そして4月も半ばの今、箱に並んでいる活け締めもの総てに脂を感じられる。料理屋さんと荷をのぞき込んで、仲良く迷ってしまったほどだ。ふたりして、どれにしようかな? といちばん大型を1尾ずつ袋にしまう。帰宅して、鱗を引き始めると皮の表面に脂が感じられる。三枚に下ろすと身が脂で白濁して柔らかい。この脂で柔らかいのが旬のマアジの特徴である。刺身を口に放り込むと、すぐ舌の上でとろっと脂の口溶け感がする。その後、しっかりアジ科らしい豊かなうま味が残る。脂の多い時季は、うま味も多いのである。こんなに脂が豊かなのに後口がいいのもマアジならではだ。くどくど文字を並べても仕方がない。ここから数ヶ月、大分県産に限らず、日本各地からうまいマアジが届き始める。今年も時季のマアジは大分県佐伯市産から始まった。
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ハチジョウアカムツの兜焼きは酒で食べきる、酒煮

昔、酒飲みだったときよく作ったものに、塩焼きの酒煮がある。塩焼きを適当にばらして、酒と煮るだけの簡単な料理だ。塩焼きと酒、ともに主役といったもので、若い頃は酒をうんとたくさん入れて煮た。吟醸酒などでもいいのかも知れないが、いつも普通酒(本醸造もしくは純米酒)を使う。
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秋田県男鹿の、ワカメのみそ汁はうまかった

徳島県民で山間部に育ったので、ワカメといえば、基本的に「灰わかめ(今はもうない)」と干しワカメだった。生ワカメは上京するまで存在すら知らなかった。東京都内では今でもちゃんと寒い時季になると、生ワカメが売られているし、料理屋さんでも使われる。山国育ちのボクも、いつの間にか寒くなると「生ワカメ」な気持ちになるようになった。東京は産地に隣接しているので、寒くなるに従い「生ワカメ」が食べたくなるのが自然なのかも知れない。ヒトは季節に争わないで生きる方が地球に優しいし、地球上の生き物にも優しい。だから、生ワカメにも季節を感じとることができる自分が喜ばしい。4月半ばになって思うのは、今年、冬から春にかけて、まことにたくさんの生ワカメを食べたこと。初生ワカメは神奈川県江ノ島でとれたもの。秋田県男鹿市船川の漁師、近藤亮さんにワカメをいただいたのが4月1日で、これがボクにとって今季、最後の生ワカメだ。先々、書くかもしれないが、4月10日に故郷から鳴門の糸ワカメ(干しワカメ)が届いた。これからは生ワカメに代わり当分の間、干しワカメとなる。今季の生ワカメのメモの再整理を行っているが、やはり印象的だったのは、くどいようだが男鹿のワカメである。男鹿市では過去にもワカメを買っているけど、心に残らないまま今年に至っている。男鹿のワカメ、福島県只見町『目黒麹店』のさっぱり辛口のみそで作ったみそ汁は最高だった。さて、さっそく糸ワカメで「酢のもん」を作ろう!
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今年も初トゲクリガニは雄

青森県のトゲクリガニは春に外海から産卵のために陸奥湾に入ってくる。その入り口にあたるのが下北・津軽の両半島なのだろう。このとき陸奥湾のトゲクリガニの盛漁期が始まる。5月の連休過ぎまで、陸奥湾で盛んにとれる、それで青森市では「湾内ガニ」という。昔、この時季に青森市に行ったことがある。1988年、青森市内各所にあった市場に入ると真っ先に目に飛び込んできたのが、逃げ出したカニだった。逃げ出したのを追いかけて店から出たオバサンに、「つかまえたら持って帰れ(意訳)」と言われたり、あっちでもこっちでも試食試食でとても楽しかった。これがボクの「湾内ガニ」の初食いである。クリガニ科なので同じクリガニ科のケガニに味が似ているが、脚の身が締まっており、なによりも内子がうまい。ただしこの内子持ちの雌は高い。
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ナンヨウカイワリは平凡なところが取り得

以下は魚類学に興味のある方だけに。ときどきアジ科の魚に標準和名「カイワリ」が多すぎると思われないだろうか? これには歴史的な背景がある。ナンヨウカイワリ、ヒシカイワリなどカイワリとつく魚は昔、Caranx 属であった。今、Caranxの和名はギンガメアジ属(種の上の階級)だが、昔はカイワリ属であった。Caranx にはたくさんのアジ科の魚が含まれていた。基本的に魚の魚類学的な名は「特徴+属名」なので、「●●カイワリ」が多くなったという経緯があるのだ。そして今現在、ナンヨウカイワリはCaranx(ギンガメアジ属)ではなくFerdauia (ナンヨウカイワリ属)である。ついでにこのように学名はめくるめく変わる。伊豆半島の遙か南の海域にある岩礁群、銭州通いしている人に聞くと、「シマアジを狙っていて、こいつが来るとがっかりする」そうである。シマアジと比べると引きが弱く、見た目がシマアジに似てはいるが、どこかしらどんくさいかららしい。ボク、即ち、食べる側としては、確かにシマアジのように味的にスターとは言えないが、比べなければかなり上の部類だと思っている。いただけるならこんなに結構な魚はない。余談になるが、関東海域では、アカハタなど伊豆諸島以南に生息していた魚の多くが相模湾北部、小田原などでも普通にとれるようになってきている。ところが本種はいまだに伊豆半島南部までの魚である。小田原でシマアジは比較的見かける機会が多いのに対して、本種にはいまだに出合っていないことが、とても気になる。関東海域以南でもう少し水揚げが増えると、比較的安くて使える魚として人気が出るに違いない。若い個体なので、単純な刺身には向かないと思ったが、念のために造ってみる。相変わらず、体高のあるアジ科らしいうまさは感じられるが、脂は乗っていない。味に奥行きがない。過去のデータからすると脂ののるのは5月になってからだ。今はうま味と食感を楽しむものと考えるべきだろう。
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塩釜産本マ、昨日のぶつ、今日ののり包み

本マの「ぶつ」を「づけ」にしたものなので、最近の小学生曰く鉄板のうまさ、である。本マの比較的控えめな酸味が醤油で引き出されているし、うま味だって調味料と一緒になって強くなっている。そこにマグロの筋のほどよい噛み応えが来る。これを明石海峡の焼きのり(スサビノリ)とご飯で包むだけの手抜き料理だけど、あっと言う間の大御馳走とあいなる。ちなみに焼きのりは一昨年頂いた明石の初摘み。一昨年から去年、今年にかけて焼きのりを、いただきすぎて、やっと底が見えてきた。明石浦漁協の焼きのりはとてもおいしかったと言っておきたい。ついでにボクは故郷、徳島県美馬郡貞光町(現つるぎ町)でいちばん不器用ものと言われた男なので、のり巻きが作れない。なので、のり包みとなる。
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Neptuneaは苦痛の種

ちょっとだけ面倒な貝の話なので、わかる人だけに。八王子卸売協同組合、舵丸水産にきていた「真ツブ・赤ツブ」を同定する。北海道根室産だが、当然、太平洋側だろう。Neptunea(エゾバイ科エゾボラ属)の巻き貝はいたって普通の食用貝だけど、同定しようとすると、とてもやっかいである。今回の、Neptuneaは非常に小型で殻長(貝殻を立てたときの高さ)は90〜110mmしかない。比較的同定しやすいものばかりだけど、エゾボラモドキは北海道道東らしい形態である。クリイロエゾボラも幼貝だけど、疑問の余地がない。真ツブ(エゾボラ)も貝殻の形態は安定している。フジイロエゾボラは同じようなものにウネエゾボラ、ウスムラサキエゾボラ、ドウナガエゾボラがいるが、このあたりの検索項目に関しては、北海道まで行き、専門家と議論してみたいところだ。写真は上3つがフジイロエゾボラ、下左端がエゾボラモドキ、左から2番目がクリイロエゾボラ、下の右2つがエゾボラ(真ツブ)。
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茨城県産(?)ケンサキイカで「イカじゃが」

茨城県産だと思われるケンサキイカは、底曳き網ものなのでとても安い。このような「そうざい種」を探すのが最近、とても、難しくなっている。作り始めて約20分ほどで出来上がるので、これがこの日の朝ご飯のおかず、となる。それにしても、我ながら醤油人間だと思う。醤油がないと朝ご飯が始まらない。起き抜けの「おめざ(甘いもの)」の甘さを、9時前の朝ご飯の醤油で洗うといった感じだ。自宅で肉を食べないので、今回のものは「肉じゃが」ではなく、「イカじゃが」である。魚でも同じようなものを作るが、魚や軟体類、希に甲殻類などで味の方向性が変わってくるのも楽しい。ケンサキイカは思った以上に煮汁に水分を放出して縮むけど、おかずに見た目は関係ないと思っているので、これで、いいのだ!そんなことを度外視しても、イカのイカらしい風味とうま味で煮染まったじゃがいものうまいことよ。穀物めいたじゃがいもがなぜ、おかずになるのか、ときどき考えても仕方ないことを考える。個人的には醤油と、動物性のうま味を吸収したじゃがいもは、最強のご飯の友である。もちろんイカだって、主役は「わたしよ」と、その甘味・うま味をちゃんと口の中に残す。これに秋田県男鹿市、船川のワカメのみそ汁、うどの酢漬けで、ほぼ一汁一菜である。これで朝・昼ご飯の友となり、夜はちょっとお値段の高い、「晴れ風」というビールの友とする。貧乏暮らしなので、贅沢はビールだけだ。
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ハチジョウアカムツの兜煮

煮つけにするなら、魚の体のなかでも複雑に骨が入り組んだ部分の方がおいしい。いちばん複雑なのが、頭部とかま(胸鰭・腹鰭まわり)で、この部分を兜という。骨が多くて食べにくいが、その労力に値倍するほどうまい。料理とは時間を食べるものだ、と思っている。骨と骨の間の身をほじくりほじくり、じっくり長々と、ちまちま食べると、ゆったりしたときが過ごせる。その点からしても兜の煮つけは優れている。赤いハチジョウアカムツの兜煮は、絢爛にして、見た目、雄壮でもある。皮と皮直下には脂の層があるので、煮つけるととろとろになる。身は繊維質で、箸でつまむとほぐれながら剥がれて、口の中に入れると脆弱に崩れる。身に脂が混在しているので一度液化しているのである。口に入れると体内温度でふたたび液化する。固体から半液体化するときに感じる甘さ、うま味の豊かさ、調味料の味と、食べながら自分の周りにおいしさの空間が生まれた気がしてくる。まずはこれにて5勺のご飯を食べて、昼を済ませる。午後は、机の上にそのまま置いて、おやつとして、お茶の友としてつまむつもりだった。夕方までもつな、と思ったら仕事でデータを受け取りに来た若い男子が、「欲しい」というので、残りを泣く泣くタッパーに入れてあげた。お楽しみはこれからだ、と思っていたんだけど……。「終いには骨湯(医者殺し)にするんだよ」。お礼にはまんじゅうがいいからね。
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臭味を抜けば高級魚、イスズミ

さて、未利用魚、未利用魚と騒がしいが、未利用魚がわかっている人はいない。未利用魚は奥が深く、まだまだ定見がない。ここに未利用魚の基礎知識を始めていきたい。未利用魚問題は、魚をたくさん集めて、たくさん料理するなどして作りあげた巨大なデータを見て初めてわかるが、国内を見渡す限り、どこにもそんなものはなく、あえて言えば我がサイトが一番大きい。また、魚価を知らなければ、未利用魚はわからない、が、そのためには、日常的に魚を買っていないとダメだが、そんな人間見た事がない。当然国内各地で聞取をする必要があるが、例えば漁業者に聞いてもいいが、加工品業者、買受人(大卸・仲卸)、小売業の話も重要であり、消費者も重要だということを忘れている人がいる。むしろいちばん未利用魚がわからないのは行政、そして漁業者かも知れないと言う事実を知るべきでもある。最近、未利用魚にマイナー魚を加えるなど、驚くほどのバカ丸出しなことをいうヤカラまでいる。今現在のところ未利用魚とは、比較的水揚げが多く、お金にならない魚のことである。未利用魚の中で「問題のある魚」の「問題」は臭いだろう。雑食性の魚は多かれ少なかれ臭味がある。腸管が長いのも共通点だと思う。臭味のある魚としてはイスズミ科、アイゴ科、ニザダイ科、タカノハダイ科、マンジュウダイ科(ツバメウオ類)などが揚げられるが、イスズミ科、アイゴ科が量的にいってもいちばん深刻だと思っている。中でも臭い問題でもっとも難易度が高いのがイスズミ科の魚だ。国内にいるイスズミ科にはコシナガイスズミ属とイスズミ属の2属があるが、問題なのはイスズミ、ノトイスズミ、ミナミイスズミ、テンジクイサキの4種がいるイスズミ属である。もともとは関東海域までの魚だったが、今や東北でも見られるようになっている。種としては圧倒的にノトイスズミが多いものの、この4種の総称としてイスズミを使いたい。もちろん臭味のない個体もいるが、この4種は、かなり高い確率でとても臭くて食べるに耐えられない個体がいる。また海藻を食べる魚なので磯焼け(海藻類が消滅すること)の原因である可能性もある。磯焼けは温暖化とも相まってこれからますます深刻になるだろう。海藻自体の消滅も問題だが、海藻がなくなると生物の再生産の障害ともなる。原因を取り除くという意味では、本種の利用を考えずにはいられないと思う。ときどき冬のイスズミ(イスズミ属)は臭くないという人がいるが、それは産地での話、とってすぐに食べるからだ。翌日、翌々日に食べ手に渡る消費地の話ではない。昔、東京都八丈島で釣りました、「今(12月)なら食べられるから」と、送ってもらったものも、取り出してみると臭味が出ていたことがある。臭味がない固体もいるが、例えば50固体に1固体臭いだけでも流通は難しいと思う。
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境港のマイワシで刺身定食

鳥取県・島根県のマイワシは昨年は4月いっぱいいい状態だった。マイワシだけは旬がわからない。同じ産地でも個体によっててんでんばらばら。おたんこなすのボクには、地域ごとの旬の整理は不可能である。でも今回、確実に言えることは、4月上旬の境港産はそこそこ脂が乗っているし、巻き網ものだとは思うが鮮度もよかった。ちなみに境港水揚げは鳥取県産とは限らない。水揚げの多くが「JFしまね」だからだ。遙か昔、境港で食事をしたとき、すし店のオヤジサン曰く、「イワシはもらうものか、拾うものだった」だったらしい。それくらい境港はイワシで賑わっていた。当然、境港だけではなく、日本海のマイワシの水揚げ量は膨大という時代は長かった。このまま山陰での豊漁が続き、昔の値段にもどってくれることを願いたいものである。さて、境港産のマイワシは抜群にうまかった。刺身全体が真っ白とまではいかないが、名残雪程度には白い。しかも身が締まっているのがいい。考えてみると、前回の島根県浜田産といい、3月、4月の山陰のマイワシは外れなし、に思えてきた。だいたい、八王子卸売協同組合、舵丸水産のクマゴロウが本音で「売りたい魚だ」と言うことはめったにない。
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ハチジョウアカムツの醤油洗い

日本料理の基本の基本なので、日本料理の料理人の誰もが知っているのが、醤油の風味と塩気を微かにつける「醤油洗い」だ。同じように魚の臭味などを、さっと取るための「酢洗い」というのもある。味つけするのではなく、生々しさを取るといったものだ。さて、学生時代、刺身定食がだめだったときに、板前さんに教わったもので、「醤油洗い」をするととてもご飯との相性がよくなる。生魚を食べるという感じが薄まる。根っからの魚好きではないボク向きの料理法だと思っている。ちなみに江戸時代後期、江戸の町などでの「刺身」はマグロが主だったが、「醤油洗い」、「酢洗い」するのが基本だったはずである。
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塩釜産本マのぶつブツぶつブツ

ときどき無性に本マが食べたくなる。ただ今のボクには、本マ(クロマグロ)は赤身ならなんとかなるが、脂の多い部分は最近重すぎる。これは明らかにデスクワークが長すぎるせいで、歳のせいではないと思っている。古今亭志ん生など死ぬまで毎日でも中トロだったらしいし、独特の茶漬けにするのも中トロだった。息子の馬生もそうだ。おでん屋で、中トロを食べておでんを食べないで帰ったことも多かったようだ。志ん生のように早く中トロがおいしいと思う体にもどりたいけど、フル回転の4月いっぱいはむりだ。さて、本マ(クロマグロの成魚)の尾に近い部分が安いのは赤身だし、筋が多いからだ。ただ本マの筋の際には味があるのである。初日はなんとか平造りに近い形になったが、決して感心できるような見た目にはならなかった。でも脂が思った以上に乗っていて、半中トロ的な味がした。いちばん下(尾に近い部分)だって本マは本マだ。高清水本醸造、燗酒うまし、春の宵。
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男鹿のワカメの天ぷらそば

秋田県男鹿市船川の漁師、近藤亮さんにワカメをいただいた。男鹿のワカメは、鮮度がいいことはもちろん、葉先・茎は柔らかく、めかぶはよくねばり、でとてもいいワカメだ。以上は前にも書いた。たくさんいただいたので、いろんな料理を作った。東京風のそばつゆがあったので、お昼は温かいそばにしようと思った。そこで作ったのが、ワカメの天ぷらである。惣菜として売られているのを見た事もあるが、我が家のものはちょっとだけ違っている。衣がぼってり厚いものが多いが、できるだけ薄い衣で口に入れると非常にもろいのである。ちょっと儚い感じだけど、さくさく、さくりと崩れて香ばしい。後からワカメの香りがふわーんと来る。
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ハチジョウアカムツの塩焼き、たぶんフランス風

獅子文六(岩田豊雄 1893-1969)名義の『飲み・食い・書く』は学生の頃、単行本を古書店で買い、文庫本をこれまた古書店で買った。「食べ物本」は作家によっては資料として読める人と、読めない人がいるが、獅子文六は前者の代表格だ。慶應出身なのに文章に久保田万太郎のような慶應臭さがない。そこに、マルセイユではサバの塩焼きにレモンをかけて食べるというのがある。これとそっくりそのままを、1980年代に米軍住宅で見ている。フランス生まれの、米軍の事務官(?)の母親は、ひとりだけ魚を夕食に食べていた。たぶんメカジキの塩焼き(グリルパンで焼いたもの)で、カイエンヌペッパーとレモンを1個丸々かけて食べていた。ボクはデジタルカメラ以前にこの塩焼きにレモン、白コショウもしくはカイエンヌペッパーをかける、という写真を何種類もの魚で撮影していた。ただ、2、3日かけてデジタルデータを見直しても、この塩焼きレモンの画像が見つからない。なので撮り直している。今回はハチジョウアカムツの塩焼きにレモンである。個人的感想だけど、この国では「塩焼きには大根おろしとかしょうが」だけど、改めてレモンの方がおいしいと思った。3切れを2日間かけて食べ比べてみたが、レモン・カイエンヌペッパーよりもレモン・白コショウの方がいい。あまりにもおいしいので、当分、魚の塩焼きはこのフランス風の食べ方でやろうと決めた。
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コタマガイの話

北海道から九州の外洋に面した砂浜に生息している。ハマグリと同じマルスダレガイ科の二枚貝で、少しだけハマグリに似ているが、一回り小さい。貝殻が正三角形に近く厚みが薄い。独特の模様があるが、とてもバラエティに富んでいる。標準和名(図鑑に掲載されるときの名)コタマガイは、正しくは「こだまがい」で東京周辺で使われていた呼び名である。漢字にすると「小玉貝」だが、由来はいろんな説があるがはっきりしない。成長すると貝殻の大きさが7㎝超える。なんだ7㎝かと思われるかも知れないが、二枚貝としては大きい方だ。国内ではいたって平凡な食用貝で、たぶん水揚げ量もそれほど少なくない。不思議な二枚貝で、ある日突然、砂浜に大量発生することがあり、ニュースになったりする。我が家に初めて来たのは何十年も前のことで、知人のまた知人というか見知らぬ人から大量に送られてきた。たぶん鳥取県の方からで、こちらもニュースになっていたようで、浜辺は本種を探す人だらけだという。渚を裸足で歩いていると、足の裏に貝が当たり、それこそごろごろと見つかる。ただし、そんな騒ぎも貝と一緒にあっと言う間に消えてしまう。秋田県の方にももらったことがあるし、宮城県からも送られてきたこともある。ちなみに、送られて来た理由は共通して、「貝の名を教えて?」というものだ。突然とれるけど、突然いなくなって何年もとれない。また突然とれる、というのを繰り返す、だから名前を忘れてしまうようなのだ。一端とれ始めると、渚を歩くだけで、ごっそりとれ、見た目がきれいなので印象に残るのだ。
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超手抜きヤナギダコの酢のもの

沖縄のウミンチュの食事に、ときどき登場するのがミツカンすし酢である。すぐ真似をするボクは、すぐにスーパーに行き、買った。ちょうど同じ頃、迷子になった画像を大捜索していて面白い画像を発見した。群馬県中之条町のバアチャンに、コイの話(もちろん恋の話ではない)を聞いたときのものだ。台所で「酢のものも、すしも全部これじゃ」と見せてもらったのが、1升瓶入りのすし酢(ミツカンではない)だったのだ。そのとき「漬物(作り)にも使うよ」と言われたはず。戦前生まれは、とても合理的なのだ。ちなみに本来酢のものは保存食で、1週間くらいにわたって食べるものだ。ボクの故郷である徳島県美馬郡貞光町(現つるぎ町)の隣町美馬町の、親戚の家で、何度も酢のものを食べているが、やはり作り置いたものだった。きゅうりとワカメ、ちりめんじゃこの酢のものが多かったが、ワカメなど茶色に変色していたが、子供のボクがいつもお代わりするくらいのおいしさだった。ボクは、魚料理にグルメとか通とか、こだわりは無用で邪魔なものだと思っている。こつこつ地道にちゃんと、いちいち加減酢を作ってもいいが、この便利なすし酢などもっと活用すべき、料理は最短を目指せ、なのだ。ということで、ヤナギダコの酢のものを作るのにミツカンすし酢を使ってみた。ゆでたてのヤナギダコをミツカンすし酢に漬け込んで、4日後(いつもは翌日)から数日かけて食べた。仕上げにゆでたワカメと和えるだけだけど、ワカメは秋田県男鹿市船川の漁師、近藤亮さんにいただいたものだ。いつもはそのときどきに三杯酢を作っているが、ミツカンすし酢で十分かもと、深夜酒用の小鉢にしてみて考えた。なにしろ3月、4月はやたらにあわただしい。手抜きは、とてもいいことだ。さすがに大きな会社が作るもので、ミツカンすし酢の味は万人向けである。嫌みはなく、ヤナギダコを差し置いて出しゃばることもない。実にいい小鉢ものとなって、夜酒のいい友となる。この量で3日間楽しめた。酒は、いただきものの「剣菱」で体が冷え冷えなので熱燗にする。
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転ばぬ先の三陸産生サバ缶

2023年10月に眩暈で救急車を呼んで入院。昨年4月に過呼吸(?)で動けなくなる。ともにやることが多すぎて、デスクワークと撮影で室内にこもりっきりになっていたときだ。魚料理以外はお菓子で凌いでいたのがダメだった。以後、3食、ちゃんと摂るようになった。これがなかなか難しい。この日はいただきものの「生サバ缶」(タイムズ缶詰 岩手県陸前高田市)を使った。プラス野菜だらけの昼ご飯である。この缶詰は三陸で揚がったマサバらしいが、ロウソク(細く小さな個体)とまではいかないが、売るには小さすぎる個体が使われている。鮮魚で出してもお金にならない、どころか輸送費を考えると、損益が出る。たぶん飼料にしかならないもとの考えてもいいだろう。今、この国の水産が一番目指すべきものは、このような魚を人が食べることなのだ。この缶詰には、今、この国が目指すべきものが感じられる。
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鉄板の味、ハチジョウアカムツの刺身

小笠原は今や21世紀の江戸前といっても間違いではない。その父島からきたので、江戸前のハチジョウアカムツだ。ちょっとくどくなるけど、ハチジョウアカムツは東京を代表する高級魚でもある。刺身は、近所の小学生の言葉を借りると、鉄板の味である。絶対にハズレがない。小笠原の魚は船便なので鮮度的にはやや落ちる。ただし、小笠原の魚には白身が多いので、仲卸に並んで、買っても数日は刺身になる。同じ江戸前でも伊豆諸島のものは鮮度がいいものの、値段も当然、非常に高く、清水の舞台から飛び降りるつもりで買わなければならない。個人的には高いことは高いけれど、小笠原で十分だ。さて、まずは尾の部分の刺身である。細長い魚は尾がおいしい。おいしい部分から食べるのがボクの仕儀なので、本能の赴くままに尾から食らう。もちろんいちばん脂のない部分なので口溶け感はない。でも口に入れた途端にどばーっとうま味が、口の容積の3倍くらいに膨らむ。そして筋っぽいのだけど、この筋の歯触りが素晴らしい。筋と言っても硬いわけではない。噛んでいると味が出てくる。刺身一切れで、味の交響曲を聴き終わった感じがする。
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忘れた挙げ句の鯛塩焼き

八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産に神奈川県横浜市、小柴から小振りのマダイがきていた。中にチダイが混ざっていたので、比較のために買った。魚は日常的に計測して撮影しているので、そのためでもある。チダイはあれこれ作ったが、マダイのことを忘れていた。ちなみに今回のマダイは体長25cm・436gと小振り、産卵郡ではないようで、非常によいものであった。放置すること5日間、皮霜造りにしよう、などと考えていたことが思い出される。水洗いしてはいたので、後は簡単である。大急ぎで多めの振り塩をする。半日ほど冷蔵庫で寝かせる。表面に出て来た水分を拭き取り、あとはじっくりと時間をかけて焼き上げる、だけだ。
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専門家すらしらない未利用魚、ミギガレイ

さて、未利用魚、未利用魚と騒がしいが、未利用魚がわかっている人はいない。未利用魚は奥が深く、まだまだ定見がない。ここに未利用魚の基礎知識を始めていきたい。未利用魚問題は、魚をたくさん集めて、たくさん料理するなどして作りあげた巨大なデータを見て初めてわかるが、国内を見渡す限り、どこにもそんなものはなく、あえて言えば我がサイトが一番大きい。また、魚価を知らなければ、未利用魚はわからない、が、そのためには、日常的に魚を買っていないとダメだが、そんな人間見た事がない。当然国内各地で聞取をする必要があるが、例えば漁業者に聞いてもいいが、加工品業者、買受人(大卸・仲卸)、小売業の話も重要であり、消費者も重要だということを忘れている人がいる。むしろいちばん未利用魚がわからないのは行政、そして漁業者かも知れないと言う事実を知るべきでもある。最近、未利用魚にマイナー魚を加えるなど、驚くほどのバカ丸出しなことをいうヤカラまでいる。今現在のところ未利用魚とはお金にならない魚のことである。ミギガレイはカレイ科の小型の魚だ。北海道南部から九州までの日本海と、これまた北海道南部から千葉県銚子市あたりの、やや深場に生息している。韓国沿岸にもいるが、ほとんど日本固有種といっても間違いではない。カレイ科の中でもっとも小さく、育っても全長25cmくらいにしかならない。高級カレイのマコガレイが全長50cm以上になることからも小ささがわかると思う。ミギガレイという標準和名はどうにも馴染めないでいる。カレイの仲間(カレイ目カレイ科)は、海底に体の左側つけて暮らしている内に、海底についている方の目が、つけていない右側に移動してきた。目が右にしかないという不思議な生き物である。遙か昔々は普通の魚の姿をしていたのが、なぜこんな姿に変身してしまったのか? は神のみぞ知る、だ。ミギガレイは漢字にすると「右鰈」であるが、姿形に「右」を探しても、どこにも「右」に思える部分はない。カレイ科の魚全種が基本的に2つ目がとも右にあるのが特徴なので、目が右にあるから本種の標準和名の意味が「右」なのだ、としてら、これもまた変なのだ。記載は、20世紀の初め頃、国内の魚をたくさん記載したことで有名な、アメリカの魚類学者、デイビッド・スター・ジョーダンとエドウィン・チャピン・スタークスである。学名(基本的にラテン語)には属名と小種名がある。属名が人の苗字だとしたら、小種名は名前である。このカレイの属名(苗字)のラテン語の意味が「右」なので、苗字、Dexistes は「右」さん、なのである。ついでに小種名(名前)、rikuzenius、は「陸前」で、宮城県陸前にあたる松島で揚がったもので記載さたための名前だ。この属名の「右」からミギガレイになった。標準和名を決めたのは、ジョーダンらと関わりの深い、田中茂穂である可能性が高いが、本種の特徴をまったく鑑みない標準和名はいただけない。福島県相馬市で「にくもちがれい」、岩手県では「目玉がれい」という。ミギガレイの仲間、ミギガレイ属にはミギガレイ1種しかいない。ミギガレイは天涯孤独なカレイなのである。

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